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フライデー


私が今日
あの子に言わないといけないニュースは
明日金曜日だけど
自宅に帰らないということ。

かわいいあの子は
カレンダーを指差して
私に言った。
「明日おうちに帰る」って。

そうだね
いつもなら金曜の夜は自宅に帰る。
でも明日は帰らない。

ドキドキしながら
私は答えた。
「明日は家に帰らないよ
 ここに戻ってきてね」

ガッカリしちゃうかな
ルーティーン大事にしてるあの子は
困ってしまうかな
って心配した。

ところが
あの子はこう言った。
「スパゲティミートソース」

「・・・・・」
私たちの間には
一瞬の沈黙があったよね。

意味がわかって
笑いを堪えながら
私は答えた。
「つまり、明日の夕飯は
スパゲティミートソースが食べたいってことだね」

そして
それに対するあの子の答えはこう。
「コーンポタージュスープ
 マカロニサラダ
 シュークリーム
 コカコーラ」

多分全部は無理だろうけど
そういう金曜日は
素敵だと思う。

出来るだけ叶うといいねって
願いを込めて
担当者に手紙を書いておく
私。

きっと
スパゲティとマカロニサラダは
同時には出てこないだろう
と思いながら。

よい週末をね。

月曜から金曜までグループホームで暮らして、週末は自宅に帰る彼ら。
そこには、いつもサポートするための私たちがいるわけだけど。
私ならもっと、1人の時間がある。
私ならもっと、好きなものばかり食べている。
私ならもっと、嫌いなものは残している。
私ならもっと、寝たい時間に寝ている。
彼らも大人なのだから、同じようにリラックスして過ごしていいと思う。
危なくないように、孤独じゃないように、不安じゃないように。そこには常に、見てる誰かがいる。
でも、そのせいで"彼らが窮屈じゃないように"気をつけている人は、きっと多くない。
ひとりぼっちでもない、だけど1人でいるくらい気が楽な、そんな関係。なれるといいなあ。
障がいのある彼ら。かわいい人たち。


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