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sweet blue/自閉症のブルー episode1

私はその人をブルーと呼んでいる。
優しさの青、ブルー。

ある日の夕方
いつものように
自閉症のブルーを迎えに行く。

時々帰りに一緒に買い物するから
ブルーは私に訊いた
「買い物に行くの?」と。
ブルーは話すことができないのだけど
よくジェスチャーで質問をするのだ。
そのくらいの簡単な会話は
私たちの間では成り立っている。
いつもなら返事は
「うん、買い物に行こう」か
「帰るよ」のどちらかだ。

でも
私はそのとき少し複雑な返事をした。
「買い物のメモを忘れてきたから
一旦帰ってから一緒に買い物に行くよ」って。

正直なところ
日常のあらゆる場面において
ブルーがどのくらいまで話を理解してくれるのかを
私はまだあまりわかっていない。
だからこれはちょっと
2人にとって新しいチャレンジだった。

さらに言えば
予定通りなことやルーティンを重要とする
自閉症のブルーが
どこまで応じてくれるかもわからない。
見たことがないくらい
機嫌を損ねるかもしれないし
あるいは
一度帰ったらもう出かけないと決めているなら
買い物にはいけないだろう。
ブルーが家にいるなら
私も出かけることはできないから
買い物のミッションを果たせない。

本当はブルーも買い物が好きだ。
行くことができれば2人で楽しめる。

ゆっくり丁寧に
説明を繰り返ししながら帰る。

ほんの少しの不安と
期待と信頼を抱えて
いつも通りに玄関を開けて
「ただいま〜!」と家に入る。

振り向くと
いつもなら私を追い抜かして家に入るブルーが
靴を脱がないで玄関で待っている。
少しだけ首を傾げたポーズで
キョトンとした顔をして。

そして
私が買い物メモを探して戻ってくるまで
その姿のまま待っていた。

それはもう
抱きしめたいくらい
愛らしくて優しい態度だった。

それから
何事もなかったかのように
2人でスーパーマーケットへ行った。
買い物中に
ふと私を見て立ち止まるブルー。
真ん中一つしか閉めてなかった
私のコートのボタンを
上から下までキレイに閉めて
「よし!」という顔で笑ってた。

何も起きてないようでいて
私たちには
次の可能性を感じられた
誇らしい日だった。

グループホームで暮らす
障がいのある彼らと
支援者としての私。
朝になったらみんなそれぞれ
仕事や作業所や生活介護施設に出かけて
夕方"ただいま〜"と帰ってくる。

家族でも友達でもないのだけど
いつでも
家みたいな暖かな場所で迎えたい。
そんな私たちの日々の記録。

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