パワーポイント作成術 ~その壱:資料から作らない~
皆さんは、パワポを作成するときは、何から着手されますか?
パワポのファイルを開いて、実際に図表を作成してみたり、画像を入れてみたり、どんな見せ方の資料にしようかゼロベースで考えてしまっていないでしょうか。
このnoteでは、こうしたやり方から脱却し、パワポ作成の早さや品質を格段に高める3つの手法ついて解説します。それは、
資料から作らない
見せ方を考えない
自分を信じない
です。順番にご説明していきます。
手法その1.資料から作らない
必死で資料を作って、上司やお客様に説明したのに「良く分からない」といった冷たい反応が返ってきてしまったことはないでしょうか。こうしたことは、なぜ生じてしまうのでしょうか?
この原因を、私が昔ハマっていた、韓国の歴史ドラマ「宮廷女官 チャングムの誓い」のワンシーンで説明してみましょう。
女官として料理を学ぶ主人公チャングム。料理の師匠から、最初のレッスンとして「飲み水を持ってきてごらん」と言われます。チャングムは最初、普通に水をくんできて、師匠に渡します。しかし師匠は口も付けず、「翌日も持ってくるように」と言うだけ。
その後も同じように口を付けてもらえないことが続きます。チャングムはお湯を持ってきたり、水に柳の葉を浮かべてみたり、色々と試行錯誤を繰り返します。しかしそれでも結果は同じ。
しかし、ある時彼女は気づきます。「なぜ、師匠は水を持ってきてもらいたいのか」と。そこで彼女は、師匠に身体の様子などをつぶさに聞いた上で、体調に合わせて塩をひとつまみ入れた水を差し出します。そして、なぜ塩を入れたかを伝えたのです。ここで初めて師匠は、喜んで水を口にするのでした。つまり、相手を起点とした思考に切り替えることで、自身が差し出すモノを受け取ってもらえたのです。
我々はプレゼンテーションやパワーポイントを作成するときに、「自分の考え方」や「自分が出来ること」を起点に作業をしてしまうことがあります。しかしそれでは、相手を動かすことはおろか、受け取ってもらうことすらできません。
押さえておくべき4つの前提
では、まず何を考えるべきなのでしょうか。プレゼンテーションやパワーポイントを作成する前に押さえるべき「4つの前提」をご紹介します。
目的(何を達成したいのか?誰をどういう状態にしたいのか?)
シーン(この資料を誰がどんな場面で、どんな風に使うのか?)
相手の状態(説明を受ける人の前提知識や特性、期待値は何か?)
要件(上記1~3などを踏まえて、資料や情報として押さえておくべきことは何か?)
例えば、自社商品の営業資料で考えてみると、以下のような整理を行うイメージとなります。
目的:お客様に自社商品の購入について意志決定してもらう
シーン:お客様の購買部長に対して説明する際の資料として使われるが、最終的には購買部長が社長に向けて説明する際の資料としても使われる
相手の状態:購買部長は自社商品の特徴をよく理解しているが、社長は自社のことも、自社商品のこともよく知らない。社長は気短なタイプ。
要件:最初の2~3枚で自社や自社商品の強み・魅力を端的に理解できるものとする。全体資料は10枚程度。
こうした4つのポイントを押さえることで、少なくとも「相手に受け取ってもらいやすい」資料を作ることができます。
「理解・共感」の壁を越えるストーリーの力
では、こうしたことを押さえた上で、何をしていくべきなのか。
そもそも、パワーポイント資料には目的が二段階存在します。まず第一段階としては相手に、
知ってもらう(覚えてもらう)
理解してもらう
共感してもらう(感情を動かす)
のいずれか、または全部の状態をみたしてもらうことです。しかし本来は、その先にある第二段階である、
決めてもらう
動いてもらう
状態まで持っていくことがゴールです。
例えば、自社商品に関してお客様にプレゼンテーションすることを考えてみましょう。第一段階としては、まず自社商品のことを知ってもらい、特徴を理解してもらって、「良いね!」と共感してもらう。その上で第二段階として、購買を決めてもらう。こうした段階を踏んでいくことが必要なのです。
しかし、まず第一段階で大きな壁が立ちはだかります。それは、
知って欲しいの壁→人は他人の話に興味がないし集中力もない
理解して欲しいの壁→相手はこちらの事情などまったく知らない
共感して欲しいの壁→相手は生まれも育ちも違う
という3つです。例えば、人間の集中力は8秒程度しか持たず、これは金魚以下のレベルとも言われています。(2015年のMicrosoftの研究より)
相手に決めてもらったり、動いてもらう第二段階に至るには、こうした壁を乗り越えていかなければなりません。そのための手法の1つが「ストーリーの活用」です。
ストーリーを持って語られる内容は、22倍記憶に残り*、理解に繋がるとと言われています。また、相手と自分との距離を縮めて、共感にも繋がりやすいのです。(*Stanford University Jennifer Aaker "Harnessing the Power of Story")
「ストーリー」とは何で、どう作るか?
では「ストーリー」とは何なのでしょうか?
一般的には、「創作物の中で起きている出来事が、発生した時間順に並べられたもの」と定義されますが、時系列で語ることは冗長となりがちなので、ビジネスシーンではあまり好まれません。
私の考える「ストーリー」の定義とは、
相手に感動や驚き、喜びなどを与えるための仕掛けや段取り
です。例えば、先ほどの営業資料でいうと、お客様先の購買部長や社長に「あなたの会社の商品は素晴らしい!是非買いたい!」という感動や驚きをどの様に与えていくか、実現のためのステップを組み立てていくことです。
では、どの様に組み立てていくべきなのでしょう。
少し余談になりますが、私が過去所属していたデロイトでは、他の部門も含めたあらゆる提案資料やプロジェクト資料が一部を除き閲覧可能でした(当時)。その膨大な資料を分析した結果、世の中の資料はおおよそ4つのパーツから成り立っていることが分かりました。それは、
前提情報(何のテーマの話か、なぜこのテーマを話しているかなど)
問題・課題(何が問題なのか、何を解決すべきなのか)
提言・解決策(何をすべきなのか、何をしてくれるのか)
補強材料(なぜ上記提言なのか、なぜ採用すべきなのか)
という4つです。俯瞰的に見ると、結局は「この4つのパーツをどの様に組み立てていくか」がストーリー作成なのです。
どの様に組み立てていくべきかは、冒頭に整理した「4つの前提」次第ではありますが、基本的には、
「前提情報」→「問題・課題」→「提言・解決策」→「補強材料」
という流れで説明していくこととなります。例えば、あなたの会社の商品であるスマートグラスを売るためのプレゼンをするとしましょう。それぞれ、以下のようなイメージとなります。
「前提情報」
自社が何者なのかを説明して、信頼できる存在であることを伝える。また、打ち合わせの背景などを説明する(相手先の○○課長から問い合わせをいただいた 等)
「問題・課題」
相手の会社の問題・課題認識をすり合わせる(「生産現場のスタッフ教育が十分できていない」という話をきいている 等)
「提言・解決策」
我々の持っている商品(スマートグラス)がその解決になることを伝える。
「補強材料」
なぜ自社のその商品を導入すべきかの情報を伝える(他社で導入した際の効果や実績、価格も競合より安いこと 等)
基本的にはこの流れになりますが、前提情報や問題・課題が既に自明で、認識共有が不要な場合には、いきなり「提言」から入る場合もあります。
また、相手の理解と共感を高めるために、間に情報を追加する場合もあります。例えば、提言・解決策を話した後に、「そもそもスマートグラスとは何か」という前提を少し話すこともあり得ます。
パーツの組み合わせパターンは無限にありますが、「4つの前提」は常に意識して組み立てていくことは忘れないようにしましょう。なお、分かりやすいストーリーを組み立てる細かなTipsもご紹介しましょう。
全体の話(抽象的な話)→部分の話(具体の話)の順番を守る
同じような性質の話は、近くに置く(行ったり来たりしない)
初見の人でも、途中で「これってどういう意味/どういうこと?」とならないよう組み立てる。
こうした点も押さえると、よりスムーズなストーリーづくりができるでしょう。
手法その1のまとめ
まず、資料をいきなり作ることはせず、資料作成の目的、シーン、相手の状態、要件の4つを押さえましょう。
その上で、相手に感動や驚き、喜びなどを与えるための”仕掛け”や”段取り”、つまり「ストーリー」を作っていきましょう。ストーリーづくりに向けては、4つのパーツ(P)の組み合わせを考えることが有効でした。
しかし、ここまで整理してみるとお気づきの方も居るかもしれませんが、そもそもパワーポイント資料を作成する必要がどこまであるか、立ち返って考えてみることも有効です。もしかすると相手に感動や驚き、喜びを与えるためには、別の手法(デモや動画など)の方が良い可能性もあります。
そういった意味でも最初に「資料から作らない」意識が重要なのです。
パワーポイント作成の早さ×品質を数倍にする3つの手法について、”手法その壱”を語るだけで、大分長文となってしまいました。その弐・その参は別の記事でじっくり語りたいと思います。
少しでも皆様のパワーポイント作成のお役に立てたのであれば幸いです!
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