窓際のおっさん8 人材育成難と人材不足(中編:不遇な教育業務)

 会社にいると色々ある。どうにもならない事ばかりで、禄を食むためだけにひたすら受け流して暮らしている。時には反撃してみたり、動き回って相手を撃ち落とすこともあるけれど、会社全体としては何らプラスがない。それでも一筆積み上げれば、誰かの一遇は照らせるかもしれない。そんな想いで今日も筆を取る。

 前回は研修が形骸化しており、それが本来やるべき教育のための時間ややる気といったリソースを削っていることを述べた。また、困った人が上の世代に案外多く、「研修を受けたのだから分かっているよね」あるいは「とにかく研修さえ開けばそれが成果になる」という類の発想で、研修を免罪符的に使う事例ばかり蔓延している現状を訴えた。

 今回はその続きとして、教育活動そのものが評価されない実態や、自ら学習する人間の不遇について、おっさんの経験を交えてお話をする。

 <現場では教育活動は過酷なボランティアになっている>


 意味のない研修への参加は辛いものだが、意味のない研修を開催するのはもっと辛い。そう考えると少なくとも意味のある研修の開催は、負担になったとしてもいくらかマシではある。とはいえ、実際は過酷なボランティアとなっているように思う。

 現場仕事の場合、仕事を伝えるのはOJTに頼る側面が多い。無論どんな仕事にもある程度のOJTは必要ではあるのだが、保護具の着用から安全衛生のルール説明、主要で共通となる機械の動かし方や、業務システムの使い方まで近年の現場はなにからなにまでで大変である。こういったものは本来は「研修」と言うよりもむしろ「外部の講習」をきちんと機能させ対応したいものである。

 しかし、予算を口実(本当は大概は人間的要因だが)に、外部講習を会社は渋ったりする。OJT負担は減ることがなく、担当となった人は現場と兼務で、資料をまとめたりなんなりで(サービス)残業になるなど、ボランティア的側面が強くなっていく。
 例えば特別教育などは法定講習なので、完成された外部講習がいくらでもある。これを利用すれば、時間もコストも結局はかからず、サービス残業という違法もない。しかし事情を知らず、成果を欲張る上役は、自社内だけでそれらをやろうなどと言い出すので、計画から周知、受講証明の発行などとコストが嵩み、高いエネルギーが必要になる。まったく困り物である。

 それでも現場で知っている人が、やっぱり法定事項だから頑張ろうねなどと理性を発揮すると、今度は仲間だった人達から「そんな正義感でものを言ったってねぇ」「だったら言い出しっぺの君がやれば?」と、揶揄されたり、一斉に指を刺されたりし、最後は真面目な人も諦めるか潰れるというケースが多いように思う。

 法律違反を放置し続け、最後は善意の強要となれば完全にブラックである。だが今我が国では珍しくない現状と思う。これは正に、上が必要な教育活動の重みをわかっていないからではないだろうか。

<ボランティアどころか手柄横取りすらある>


 それでも、若くて真面目であれば、正義感というよりも正しい倫理観の赴くままなんとかやり遂げてしまうこともある。ところが、その過程で、部下にタダ働きをさせ、その成果で功を誇るような上役もいた。
 
 おっさんの政令市勤務時の話をする。どこぞの区役所の区長(局長級)の話である。自主研修グループという、職員がボランティアにより勉強をするグループをおっさんが作って活動していた時のこと。おっさんは勉強のテーマを「ドローン」にしており、その関係でお声がかりがあり、ドローンで市の公式Twitterに使用するフォロワー数達成記念動画の撮影依頼を受けた。
 条件は以下の通りで当初合意した。

 自主研修グループであるので、本来は業務内の話だが、予算や市民の目、担当課の事務的負担などもあるから、仕事外とし、ボランティアで撮影しても良い。ただし、仕事外であるのでグループや個人の成果としてキャリアに活かしたい。故に最低限、撮影者の名前を動画に入れて欲しい。

 これで担当課は了承し、決済も成されたのだが、いざ動画が完成し、期日が迫ると区長は「職員がした仕事なのに個人名が載るのはおかしい」などと修正を命じてきた。
 これに対し「職員がした仕事と言うのであれば給与が発生する話になる。遡ってそうなさいますか?」と確認したところ「あくまで自主研修グループなので仕事ではない」と回答してきた。正に良いとこ取りである。

 結局話は平行線であり、区長の最後のゴネで掲載開始期限を1ヶ月近くも過ぎてしまったので、やむなく「個人名掲載なし、給与なし」で折れたが。。。

なんとその後、この区長は市長に対して成果を見せびらかし、「自分が指示を出して無料で動画を作らせました」と功を誇ったのである。ちなみにおっさんはこの区長とは未だに面識すら持てていない。


 流石にはらわたが煮え繰り返る想いだった。ドローンだってタダではない。それなりに費用がかかっている。それなりの学問で勉強時間、練習時間も有に100時間越えのスキルなのだが、そこをわかっていない。
 最初の約束を反故にしたことに加えて、屁理屈を述べてタダ働きさせ、あまつさえその成果を上司に誇る。こんな厚顔無恥な人間が政令市の区長をしているのだから、尊い正義感なり倫理観に基づく教育活動も、その勢いが大きく削がれようと言うものである。

次回に続く


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