窓際のおっさん2 15年前と今、失われた芝居くささと四字熟語

会社にいると色々ある。どうにもならない事ばかりで、禄を食むためだけにひたすら受け流して暮らしている。時には反撃してみたり、動き回って相手を撃ち落とすこともあるけれど、会社全体としては何らプラスがない。それでも一筆積み上げれば、誰かの一遇は照らせるかもしれない。そんな想いで今日も筆を取る。

今も会社なんて芝居くさくて気持ち悪いなと思うことは多いのだが、
昔はそんな芝居くささが上の好感を誘うような部分もあって、
四字熟語を連発しながら、儀式的な会話が展開されていたこともあった。
例えば、新人が部署に配属された時の会話を、平成20年あたりと、
令和5年あたりで比較するとこんな感じと思う。


<平成20年>
課長「えー、本日付で配属になった新入社員を紹介する。
 クラタコンゾー君だ。彼は機械工学出身で、以前は宇宙機構に勤めていたそうで、前の会社では研究開発の部署で機械操作とか、点検作業を中心に仕事をしていた非常に優秀な人材です。じゃあクラタ自己紹介を。」

新人「初めまして、クラタコンゾーと申します。草冠の蔵に、近い遠いの近と書きます。本日よりこちらでお世話になります。趣味は映画鑑賞国内旅行です。
バイクにも乗ります。まだまだ分からないことだらけですが、一生懸命がんばりますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。

パチパチパチパチ。。。(遠くで怖い顔した幹部が若干反応して部屋を去る)

課長「はい、じゃあクラタ君、元に戻ってくれるかな? うん、ありがとう。
 まあこの仕事は最初は難しいかもしれないけども、慣れれば楽しいからさ、
 みんなと仲良く馴染んで1日でも早く仕事に慣れてもらったら良いから。。。

 みんないい人だし、叱咤激励してもら得ると思うから、一つ頑張ってよ。

係長「へぇ〜クラタくんバイク乗るんだ〜」
先輩「家どこなの? 前働いてた職場ってさぁ〜」
以下省略(プライベートの詮索や飲み会の誘いなどが続く)

<令和5年>
課長「じゃ一応、新しい人入ったんで軽く紹介します。じゃクラタさん。」
新人「本日からここで働かせていただきますクラタと申します〜。
 以前は電気点検などを経験していました。どうぞよろしくお願いします〜。」
課長「はい、有難うございます。じゃあ今年も新しい人入りましたんでね、
 皆さんで分からない点など教えてあげて下さい。よろしくお願いしま〜す。」
課員「よろしくお願いしま〜す!」

そのまま普通に席に着く

係長「じゃあまあ、説明はあとでするんで、荷物整理でもしててよ」
先輩「あ、どーもー、よろしくお願いします〜」
(周囲は緩く業務継続しつつ、軽く会釈などをするも通常運転が基本)


かなり極端に表現したので、下手すると平成1桁台か昭和に入る可能性もあるが、
おっさんの記憶が正しければ、平成20年なんてまだまだこんな感じだった。
とにかく定型文を交えた台本通りのセリフを言わないと行けない雰囲気や、
非常に優秀な人材だなどと言った、歯の浮くような美辞麗句が並ぶ。
あえて太字にしたが四字熟語や定型句も口語の中に割と入ってくる。
一方で最近ちょっと耳障りなのが「〜させていただく」の言葉だろうか、
昔の芝居くささに比べたら全然なんだが、
古い人には馴染みが薄いので、言葉の変遷をちょっと感じるところがある。

また、人との接し方も随分と変わったものである。
マネージャークラスが新人の性格を見つつ、
初日〜1ヶ月ぐらいの間、おりに触れて自己開示を促す話題を
振ることもあるが、基本はあまり踏み込まない。
新人が自分で確認する力があれば、先輩や周囲が仕事を教えて普通に回っていくし
そうでない時も係長がMTGなども含めてちょっとづつ必要なことを伝えて
最終的には半自動的に業務の遂行と学習がなされていく

昔はまず「打ち解けること」をすごく重視していた気がするが、
仕事を伝えるのに必ずしも打ち解ける必要性はなく、
むしろ打ち解けようと無理をしないことによって心理的負担や安全性が確保され、
スムーズに情報伝達ができることも珍しくはないと現代なら分かる。

打ち解けるのは雰囲気や性格を見極めながら、個々で勝手にやるものだ。

昔はいきなり趣味の話をしなければならない空気だったり、
前歴を洗いざらい上がしゃべって伝えたりと、
今では考えられないようなことをやってしまっていて、
内心、会社で働くのが結構面倒に思う人が多かったと思う。

現代では例えば30人ぐらいの組織だとして
しゃべる必要のない人とは、1年間全くしゃべらないことも珍しくなく、
面倒臭いやつに色々と勘繰られたり、
失礼なことを突っ込まれたりという事案も
だいぶ無くなったため、適切な距離感がとりやすい。

芝居くささと四字熟語
散々必要なことだと信じこまされた挙句、
おっさんも結構やらされたけど、
振り返ってみれば結局は要らなかったよなあ。。。と思う

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