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読了のおっさん26 海王ダンテ(原作:泉福朗、作画:皆川亮二/ゲッサン)

今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。
概要的なネタバレは含みます。

海王ダンテ(原作:泉福朗、作画:皆川亮二/ゲッサン)
2016年~2021 全13巻

① タイプやテーマなど
 18世紀、近世ヨーロッパ、海洋もの、オーバーテクノロジー、イギリス、フランス、ホレイショネルソン、ナポレオン、アトランティス、人種差別、冒険、歴史、戦争

② 簡単な内容
 コルシカで生まれ育った少年「ダンテ」は、育て親の牧師から、膨大な知識と意識を宿した本「要素(エレメント)」を譲り受ける。「要素」との契約を果たしたダンテは、同時に意識を粒子で具現化させる超技術を持ったペンダント「魔導器」もまた、牧師より譲り受ける。
 幼馴染でライバルの「ナポリオ」少年も同様に、未来技術の設計図を作り出せる意識を宿した本「構造(ビルド)」との契約を果たし、これらの本を狙う者や、本に纏わる運命によって、冒険に満ちた人生へと導かれていく
 また、同様の本は世界に3つあり、「生命(ライフ)」が存在する。ライフは不治の病の治療や死者の復活すら可能とされており、重病となった幼馴染のエマを救うために、「ダンテ」「ナポリオ」が、各々の本の力を使いつつ、生命が封印された北極圏へと向かうところから物語がスタートする。

③ 読みどころ
 まず絵が良い。人物もそうだが、近世ヨーロッパの軍人の衣装や、艦船、兵器の書き込み、北極圏・インド・イスラム・アフリカなど、世界の様々な自然の景色がしっかり描かれていて、わくわくや臨場感がある。オーバテクノロジーやそれによる怪異的な現象もガッツリと描写されており、それだけでも読み応えがある。

 物語もまた良い。近世で、分かりやすく言えば、アメリカの独立、フランス革命、インドの統治、オーストラリア大陸開発、アヘン戦争といった部分が一挙に同時代に描かれている。
 モデルとなっているキャラクターの生年や、作中での時間の流れを考慮すると厳密の歴史とは食い違いがあるものの、近世以前の登場人物達も、様々な理由や展開で復活して物語に加わっており、これらの出来事や世界背景を一挙に詰め込んで、濃密な世界とストーリーが構築されている。

 海軍と侵略、冒険と自然破壊、テクノロジーと戦争、文明と人間と言った視点で、歴史上の人類の過ちから、問題提起と同時に、それに立ち向かう痛快なドラマが続き、最後まで一挙に読めてしまう。

④ 雑多な感想
 大航海時代以前と、アヘン戦争以後については、案外色々な物語や、有名な発見、芸術などの影響で、印象深い時代であったが、本作の18世紀の世界情勢については、個人的には印象の薄ところであった。
 しかし、今回本作に触れて、改めてこの時代に係る色々な知識の断片を思い出した。そして、時代考証も含めて、色々と考えながら読み耽ってしまった。

 この時代を表す他の二次元の作品で「不思議の海のナディア」を思い出した。本作はギリギリ同時代かちょっと古い時代の背景をエッセンス的に含んでいる。

 また、アトランティスが出てくる。かつてあったとされる、現代文明よりも遥かに高度な文明を持った、仮想の大陸国家である。現代も大陸自体はあったのなかったのと話題になることはあるが、本作のオーバーテクノロジーと、ファンタジー要素の裏打ちとして登場している。
 人類の進むべき未来について、アトランティス人が、その歴史で得た教訓や、今後の選択をどうしていくかという回答を示しており、現代を生きる人類(つまり読者)に、提案を示している部分もある。
 
 少々ネタバレになるが、人を支配することについて、力で統一するのか、平和的に分かり合おうとするのか、何度も作中で取り扱われる。黒人差別、貴族のメンツと財産、植民地の原住民との関わり方、軍隊組織と戦争。その過程で人と人とが武力衝突したり、命を何かと引き換えたり、奪い合ったり、騙しあったりという描写が続く。
 その度に、真っ直ぐな理想主義の主人公「ダンテ」と、冷徹で合理的だが信念もハートもある「ナポリオ」とが対比され、どちらが正しいとも言えない人間の複雑さが描かれている。13巻とコンパクトだが、重厚な作品だった。

⑤ その他
 作画はARMSの皆川亮二先生だった。リアルな絵柄で、本作のストーリーや世界観が非常に際立つ。ARMSも改めてしっかり読み直したくなる。
 また、一通り読んでみて、名作だけれどもアニメは難しいような感じもした(当然悪い意味ではない)。昔おっさんが遊んでいた「大航海時代Online」にコラボで出ていたとの情報もあったが、二次創作はそれぐらいの範囲で止まるのかも。
 リアルで時代物となると、読み手のイメージの余地が残っている方が楽しめるようにも思う(個人の感想です)。

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