まぐわい
夜中、小腹が減って台所に行くと、クマが冷蔵庫とまぐわっていた。まぐわうというのはつまり性交、セックスだ。
クマはよいとしても、冷蔵庫にセックスができるものだろうか。どんなに最新の冷蔵庫にも、そんな機能が搭載されたという話は聞かない。
けれど、クマは実際に冷蔵庫とまぐわっている。
(悪夢だ……)
それはクマとしても命懸けの行為だったようで、行為後、クマはその場で絶命した。壮絶な最期だった。大自然の驚異を垣間見た気がした。
(この世界は何でもありなんだ)
事実は小説より奇なりの言葉もあるが、人間の想像力など自然の足元にも及ばない。人間の作り出した冷蔵庫も、容易に自然のシステムに組み込まれてしまう。
そのことを、私はその晩、嫌と言うほど思い知った。
それから私がしたことは、クマの死体を始末することだった。その偉大な力を少しでも自分のものにしたいと考え、その肉を食べることにした。
しかし巨大なクマだ。一日二日で食べきれるわけもない。そこで私はクマの肉を冷蔵庫に保存した。
クマの肉は食べても食べても一向に減らなかった。そして冬になり冬が過ぎて春になった。
ある夜、小腹が減って台所に行くと、冷蔵庫がクマの赤ん坊を産んでいた。クマの子は三頭いた。不思議と他人とは思えなかった。
今はまだコロコロと小さいが、きっとすぐに大きくなるのだろう。そのとき私は彼らに食われるのだと思う。そんな予感がしている。
少し怖いが、私はそのときを今から心待ちにしている。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?