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『共謀者たち』(河野太郎・牧野洋) 書評

本書は河野太郎先生と、元日本経済新聞編集委員の牧野洋氏の対談形式で、日本のマスコミにメスを入れるといった内容になっています。だいぶ突っ込んだ話題も多く、マスコミの闇が浮き彫りになっています。

この本に関しては、後日談でこのようなブログが上がったようです。

「発表が決まっていることを数日前にスクープするのは正しいジャーナリズムではないということを訴えました。 つまり、発表の前にスクープするということは、リークをもらわなければならないわけで、その情報源と深い関係を築いておく必要があります。そしてその情報源から「信頼」できる記者、つまり情報源にとって悪いことをしない記者であると思われなければなりません。 ということは、その記者は、その情報源が悪いことをしても、それを記事にすることができなくなります。取材対象を批判的に見るのではなく、取材対象と同一化していかなければリークをもらえないのです。 それはジャーナリストとしてあるべき姿ではないというのが我々の主張でした。」

河野先生は記者、マスコミ、そしてジャーナリズムのあるべき姿をこのご著書で鋭く指摘されています。 私がこの1冊を読んで1番に感じたのは、「こんなことになっていたのか…日本のマスコミ、大丈夫か!?」ということです。

「本書を読んでくださるみなさんとある種の危機感を共有することができれば、本書は大きな役割を1つ果たすことができたといってもよいだろう。」(まえがき-暗黒回廊で繋がれた政治家と記者 より)

この危機感を強く感じることができたことが、私のこの本を読んだ大きな収穫の1つです。 それでは細かいトピックをいくつか軽く紹介していきます。

・原発関連の話題

今回は第1章の「原子力ムラの住民として」を中心に見ていこうと思います。メインテーマは福島第一原子力発電所の事故についてのマスコミと政府の在り方です。

河野先生は、3.11の原子力発電所の事故後、政府は「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」のデータをすぐに公表しなかった件について冒頭から指摘されています。3月12日には既に政権与党の民主党はSPEEDIの予測図を取り寄せていたそうです。

河野先生「つまり、政権は、国民に情報を知らせず、自分たちのためだけに、このSPEEDIを利用したのです」牧野氏「政府がSPEEDIのデータを迅速に公開し、住民避難に利用していたら、その後の展開はずいぶん違ったかもしれません。」

しかし、このことを取り上げた朝日新聞の添田デスク(当時)は2011年5/10に退職し、新聞社は記事の掲載を躊躇した末に3/18に出稿されたものを22日に5面3段という扱いで載せたのです。

・総裁選とメディア

原発の話題に関連して、自民党総裁選とマスコミの在り方についての記述がありました。

2009年、河野先生は自民党総裁選に出馬されました。

ここでも取り上げた言葉ですが、再掲します。

「原子力政策の誤りを取り上げて、核燃料サイクル推進にストップをかけること、年金は100年安心だなどという嘘をやめ、国民年金と厚生年金の両方を持続可能な制度に抜本的に改めることの二本柱をかかげ、自民党の誤りを直そうと思ったからです。 最初から20人の推薦人を集めるために党内を走り回るのではなく、国民に向けて原子力と年金の2つを訴え、まず私の主張を理解してもらおうとしたのです。」 しかし、マスコミは河野先生が推薦人を20人集められない見込み、と報道しました。政治部の記者は、推薦人にしか興味がなかったのです。

「いまの新聞の政治面には、「誰と誰があった」といった政局情報ばかり。そして、政治家も、「誰が誰の支持を表明した」といったことばかりを気にします。
政治家とマスコミのインナーグループ化を防ぐには、政局重視に別れを告げて、政策論争を盛り上げるしかありません。」

正直、自民党総裁選挙において、党内ではどうしても派閥力学重視になるのは当たり前で仕方のないことだと思っています。だからこそ、マスコミは各候補者の政策を積極的に報道し、一般国民による政策論争を盛り上げ、1番政策が良い政治家の支持を世論側からプッシュしていく、そういった役割を担ってほしいな、と思います。

・インターネットと政治

この本が出版された当時はまだまだ政治におけるインターネット利用は今ほどは進んでいませんでした。しかし、マスコミの報道の仕方などは、インターネットの普及によって変わってきていると言えます。

「ネット上で動く際に重要なもう一つのことは、テレビや新聞のような一方的な発信ではなく、ネットならではの、双方向のやりとりができる場をつくることです。そういった場をつくり、国民の声を吸い上げることができれば、若者も含めて、政治に関心を持ってくれるようになるでしょう。
政治家の記者会見は、与野党問わず、面白みのないものが多いですから、編集なしで映像を素人が流しても、それを皆が見るとはとても思えません。
しかし、ネットを単なるアウトプットとして使うのではなく、双方向の意見の交換の場に使うことができれば、政治を確実に変えることができます。」

この1番の例は、ニコ動とYouTubeで2か月に1度行われている、河野先生の生放送でしょう。国民からの質問に大臣が直接答える、ということは、インターネットなしでは全く考えられなかったことです。

私は、河野先生は「新しい時代、これからの時代の政治家」の筆頭なのかな、と思っています。所詮ネット、と今までは言われてきましたが、たかがネットからされどネットという時代。インターネットでの支持の獲得が、今後の選挙や政治に大きな役割を果たしてくることは間違いありません。そのことにいち早く目をつけ、先駆者的にそれを活用されてきたのが河野先生です。時代がようやく河野太郎に追いついてきた。そのように感じるのは私だけでしょうか?

・最後に

本書のメインテーマのマスコミと政治家の関係については、今回の書評では詳しく取り上げることが出来なかったエピソードも多いですので、実際に1度読むことをお薦めします。冒頭で引用したある種の「危機感」をより多くの人に感じていただき、自分なりにマスコミの報道の受け取り方について見つめ直していただければ嬉しいです。

長文にお付き合いいただきありがとうございました。

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