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みんな知らないポリシーの世界

今日は僕の本業の話です。この記事を読むことで、企業が定めるポリシーとは何か、どうしてビジネスにとってポリシーが大事なのかを理解していただけると幸いです。英語で「Policy」というと時に法律のことを指すことがありますが、僕は法曹ではありませんので、企業が定めるポリシーの話がメインになります。ちなみに英語で「法律やルールをつくる人」は Law maker, Legislator, Policy builder, Policy developer なんていいます。

ポリシーとは何であって、何でないか

ポリシーと聞いてすぐピンとくる人はもう専門家と言っていいでしょう。ですが多くの人はまだポリシーがどういうものかよくわかっていないのではないでしょうか。まず、この記事で僕が話すポリシーとは「法律ではない」ということを理解してください。企業の定めるポリシーに関する仕事をしていると、よく外部の人から言われるのは「我々は現地法を遵守してビジネスをしています」という一文なのですが、これは僕にとってはあまり意味を成しません。現地法を遵守することはビジネスにおいて当たり前の前提であり、企業が定めるポリシーは法律に上乗せで企業が定めるルール(例:利用規約)です。ですから、ポリシーの話をしている時に法律の話を持ち出すと、ちょっと話が逸れてしまうのです。改めて申しますがポリシーとはルールです。ルールを守らないとスポーツの試合にも出られませんよね。というわけで、ポリシーの遵守は、試合に出る権利を得るために超大事なのです。

ポリシーはなぜ必要なのか

先に述べた通り、ポリシーとはスポーツに例えるとルールのようなものです。でもどうしてそんなに細かくポリシー規定が必要なのでしょうか?僕が思う限り、大きな理由は2つあります。

  1. 自分のプラットフォーム上で好き勝手されると困るから

  2. 自分のプラットフォーム上で問題があった時、プロダクトを守るため

例えば Twitter を想像してください。基本はみんな好き勝手つぶやいていますが、それでも超えちゃいけないライン、ありますよね。この超えちゃいけないラインは日本の現地法で管理される部分もあれば、Twitter 社が規制している部分もあります。Twitter としてはユーザーに健全にプラットフォームを使ってもらい、健全にビジネスをしたいのです。ですから、好き勝手は出来ないようにポリシーでユーザーに対して規制をしています。

それでも問題は起こりますよね。現に Twitter や 2ch (今は 5ch でしたっけ?)では、誹謗中傷、事件予告や未成年売春など、超えちゃいけないラインを大幅に超えてしまう人がいますよね。そういう問題があった時、警察やその他の政府機関はこう思います、「なぜ Twitter はこういう投稿を規制しないのか!」この政府からの問いかけに対して、ポリシーがあると Twitter 社は弁解ができるのです。Twitter が説明するストーリーは、「まず Twitter としてはこういうポリシーを制定しています。ユーザーはこのポリシー(利用規約)に同意してプラットフォームを使用しています。しかしリアルタイムで更新されるプラットフォームというプロダクトの性質上、全ての違反投稿を管理するのは限界があります。もちろん会社としては Trust & Safety という部署を置き、問題に対して速やかに対処をしています。」という話ができるわけです。これはしっかりとしたポリシーがないと出来ないことなのです。

ポリシーはどこにあるのか

ポリシーと言ってもたくさんあります。企業ポリシー、プロダクト ポリシー、プラットフォーム ポリシー、プライバシー ポリシー、乙女のポリシー、など様々です。今日は Google を例にとってプラットフォーム ポリシーについて解説していきたいと思います。

さて、プラットフォーム ポリシーってどこにあると思いますか?
いつ、どこで、誰が守らないと行けないルールなのでしょうか?

Google の例を取ってみるとわかりやすいです。Google のプロダクト(製品)には全て独立したポリシーが存在します。例えば、AdSense Policy, Google Search Policy, YouTube Policy, Google Play Contents Policy (Apps & Games policy, Books policy, Movies policy), Google Analytics Policy, などなど、すごい数のポリシーが存在します。Google のプロダクトを使ってビジネスをする企業や人は、すべからく、そのプロダクトのポリシーを常に守ることを要求されます。ちなみに上記した中で、僕は Google Play Apps & Games のコンテンツ ポリシーのスペシャリストです(僕はポリシーをつくる人ではないので正確にはポリシー スペシャリストとは違いますが、まぁエキスパートであることには変わりないので、そう思っておいてください)。

ポリシーに違反するとどうなるのか

Google Play のコンテンツ ポリシーを例に見てみましょう。皆さんはスマホアプリをダウンロードする時、iPhone ユーザーなら App Store, Android ユーザーなら主に Google Play からダウンロードしますよね。ここではアプリ開発者の目線に立ってみてください。皆さんが遊んでいるスマホゲームが Google や Apple のポリシーに違反すると、アプリが App Store, Google Play でアップデートができなかったり、アプリ ストアからアプリが削除されることがあります。それは即ち、もうアプリを使ってビジネスができないことに繋がります。これが非常にリスクの高いことなのは明白ですから、Google の渉外交渉担当者は入社するとまず最初にポリシーの勉強をします。アプリの開発者も当然ポリシーの勉強をしますが、意図せずポリシーに違反してしまうことはあります。ポリシーに違反してしまったら、焦らず、まずは落ち着いて、どうやって違反を修正するか考えましょう。

ポリシーは常に進化する

新しいポリシーを作るきっかけは主に2つです。

  1. 新たにポリシーによる規制が必要になった場合

  2. 集団や業界からのフィードバック

まず1点目ですが、ポリシーは「これはやらないでくださいね!」というルールブックです。例えば、「人を騙すような広告クリエイティブは禁止です!」というように、やらないでほしいことをポリシーで規定しています。しかし、インターネットの世界が急速に進化する中で、必ずしもポリシーがビジネスより先に規定されるとは限りません。つまり、まだ見ぬテクノロジーを使った新しいビジネスが生まれた場合、それをどう規制するかは後手になるということです。これはポリシーでも法律でも一緒ですね。また、悪質な手法でユーザーを騙すような行為はもちろん禁止されていますが、この網を掻い潜って新たな手法が編み出されることもあります。新種のコンピューター ウイルスを想像してみてください。世界中で毎日のようにいたちごっこが続いていますよね、あれと似たようなものです。

2点目について(また Google の例で恐縮ですが)、Google は個人や団体、業界からのフィードバックを大切にしています。僕も仕事で「こういうビジネスを考えているんだけど、ポリシー的にどうですか?」と聞かれることがあります。この質問で困るのは、ビジネスモデルが新しすぎて、対応するポリシーが存在しない場合です。全てのケースではありませんが、稀に、「では新しいポリシーを規定しましょう」という話になります。これも法律でも似たような感じですね。ちなみに僕のおすすめは「ポリシー的にグレーだと感じたら攻めすぎない」ことです。グレーゾーンを攻めすぎても、いいことないですからね。

ビジネスをする全ての人が絶対に知らなければならない「プライバシー ポリシー」

「こういうポリシーって大事ですよ~!」という話をしだすと一日では終わらなくなってしまうので、最後に、数多あるポリシーの中でも特に重要で、誰にでも関係があるプライバシー ポリシーについてお話したいと思います。

現代社会において、ポリシーを無視してビジネスを行うことはもはや不可能です。その中でも特に大事なのがプライバシー ポリシー、即ち、個人情報の保護です。自分が何かを買う時や契約する時、プライバシー ポリシーが無い企業って、ちょっとうーんってなりませんか?ユーザー目線で見ると、プライバシー ポリシーに興味がない人にとってはめんどくさいと感じるかもしれませんが、自分の情報がどのように扱われるかに敏感になっているこの世界情勢では、プライバシー ポリシーが無いなんて商習慣としてあり得ないというのが現代社会です。例を2つご紹介します。

  • 2016年に「EU一般データ保護規則(GDPR)」が制定されました。wiki によると:EU一般データ保護規則の第一の目的は、個人が自分の個人データをコントロールする権利を取り戻すこと、および欧州連合域内の規則を統合することによって、国際的なビジネスのための規制環境を簡潔にすることである。と書いてあります。これは当時ものすごいインパクトのあった規制で、Google もこの規制に対応するために、長い時間とリソースを使いました。GDPR は各国にも応用され、日本では2020年に改正個人情報保護法が施行されました。

  • 最近 Apple 社の CM をテレビで観た人も多いのではないでしょうか。この CM では、プライバシーを守ることを全面に押し出して iPhone の宣伝をしているのです。今後、他社も同様に、個人情報保護を守ることを全面に押し出してモノを売っていくとともに、人々の意識も改革されていくことでしょう。

ちなみに Google Play では、プライバシー ポリシーに以下のような要件があります(2022年6月現在)。

すべてのアプリで、プライバシー ポリシーを Google Play Console の所定の欄とアプリ内の両方に掲載する必要があります。プライバシー ポリシーでは、アプリ内での開示内容と併せて、当該アプリでユーザーデータ(データ セーフティ セクションで開示されているデータに限定されない)がどのようにアクセス、収集、使用、共有されるかを包括的に開示する必要があります。これには以下の情報が含まれます。

・デベロッパー情報、およびプライバシーに関する連絡先または問い合わせを行う方法

・アプリがアクセス、収集、使用、共有するユーザーの個人情報や機密情報の種類、およびユーザーの個人情報や機密情報の共有先

・ユーザーの個人情報や機密情報を安全に処理するための手順

・デベロッパーのデータ保持ポリシーおよびデータ削除ポリシー

・プライバシー ポリシーであることが明瞭にわかるラベル付け(たとえば、タイトルに「プライバシー ポリシー」と記載する)

アプリの Google Play 掲載情報に記載されている主体(デベロッパーや会社等)がプライバシー ポリシーに明記されている、もしくはアプリ名がプライバシー ポリシーに明記されている必要があります。ユーザーの個人情報や機密情報にアクセスしないアプリであっても、プライバシー ポリシーを掲載する必要があります。

プライバシー ポリシーは必ず、有効な URL(PDF ではない)で参照可能、かつ編集不可にしてください。

プライバシー ポリシー

ちょっと長いのでまとめると、この要件で大事なのは以下の2点です。

  1. ユーザーデータがどのようにアクセス、収集、使用、共有されるかを包括的に開示する

  2. ユーザーの個人情報や機密情報にアクセスしないアプリであっても、プライバシー ポリシーを掲載する必要がある

今後皆さんが仕事でプライバシー ポリシーに関わる機会があったら参考にしてください。

終わりに

今回は長文になりましたが、お付き合いいただきありがとうございます。今後皆さんが就職、転職、異動をした際には、まずご自身のプロダクトのポリシーを確認して、しっかり勉強してくださいね。会議で「それポリシー的にどうなの?」とか「ああ、それはポリシーに違反しますね」とか言えるとカッコいいです。目指せポリシーマスター!

ではまた次の記事でお会いしましょう。


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