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東京サルベージ【第31回 ◾️鳩レンジャー】

ヒーローや戦隊ものといわれるジャンルに興味のない子供だった。

母は兄弟の多い家の末の方で、父は兄弟のなかでは晩婚の方だったから、私は従弟・従妹の方では序列が低い方の味噌っかすで、おにいさん・おねえさんたちに遊んでもらう方の子だった。
耳年増になりやすい環境であるので、気の利いたおにいさんの一人が、早々にヒーローや戦隊ものの「中の人」の概念を教えてくれていたのだろう。「役者さん」といわれる人が暑いおもいをして懸命に演じているということを(大変だなぁ)という思いで観ている、言ってしまえばつまらない子供だった。

 先日、ダンスレッスンの開始待ち時間に、マダムたちの雑談に聞き耳を立てるまでもなくストレッチをしていたところ、そのヒーローの名は飛び込んできた。

「うちの子が鳩レンジャーのお面を持ってるんだけどぉ」
 「鳩?」

私は思わずそのグループを二度見した。
誰も鳩レンジャー自体にはつっこみを入れず、「男の子ねえ」みたいなリアクションをしていた。
乗り物やら昆虫やら子供たちが夢中になれそうなものをモチーフにして実写ヒーローが造形されるのは知っていたが、鳩???
きっと、豆鉄砲を食らったような表情になっていただろう。
鳥なら鷲とか鷹とか隼とか、まあ戦闘機の名前になりそうなものが王道というものだろう。

「君たちには最新鋭機に乗り込んで敵陣につっこんでもらわねばならない。見たまえ、この雄姿を。その名も「鳩」だ」

上官から伝えられたときの絶望感はないだろう。
戦闘機でさえそうなのに、生身同然のバトルスーツで戦わなければならないレンジャーさんたち、言わんやおやである。

私はそのビジュアルを想像してみた。
まず、くちばしがついている。ヒーローにはにつかわしくないだろうが、鳩がモチーフなのだから仕方がないだろう。
ヒーローにしては跳躍力があまりない。
前傾姿勢で小走りにやってくる。
眼はつぶらな感じで歩行時やダッシュしているときにクビが前後する。
そのくせハトムネで、上半身は割とムキムキしている。
変身するときに「ピッジョーン!」と掛け声をし、
5人で敵を取り囲んだときに小刻みなステップを踏みながら「クックルー、クックルー」とやたら五月蠅い。
彼らは、普段は郵便屋をやっている。(伝書鳩からの連想だ)
無論それはかりそめの姿で、年賀状やお歳暮の配達の際に、信書を盗み見したりして、悪の組織を突き止めたりするのだ。(昨今では廃れてきたとはいえ、悪の組織ほどそういった義理堅い風習は残っているのだ)

こんな連中を5人かき集めて、悪の組織に立ち向かわねばならないのか。いくら鳩が平和の象徴とはいえ、あんまりではないのか。
というより、これを企画会議で大真面目に通して、それなりの視聴率を稼ぎ、グッズを売らねばならないミッションの大きさに眩暈がする思いがした。

(見たい。彼らの姿・かたち、企画のなりたち、ストーリー、そして主題歌のすべてを・・・)

私は気になって身の入らなかったレッスンを終え、ダンススタジオを出るとスマートフォンを取り出して、鳩レンジャーを検索してみた。

「もしかしてパトレンジャー」

検索結果は冷めたような感じでこう切り出していた。
グーグル先生のため息が聞こえた気がした。
パトレンジャー。ああ、パトロールするんだ・・・。ふーん。
警察戦隊だってさ、つまんないの。

私はふと、昔遊んでくれた、従兄弟のおにいさんやおねえさんたちを思い出し、ああもう彼らは還暦に近いのだなぁと思った。
まだ夏休みや正月になると従弟・従妹が一同に会したりして遊んでいたようなそんな時代だった。

取材、執筆のためにつかわせていただきます。