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舞台の光

 先月の末、折坂悠太氏のライブに行った。
 ちょうど中秋の名月の日だった。移動時間の計算を誤って、時折雲の隙間から覗く月のした、三軒茶屋の駅から続く長い行列に従ってじりじりと歩いた。行列はやがて会場である大きなホールへ吸い込まれていき、並んでいた彼らがみな同じ目的を持って歩いていたことに驚く。

 本当は、二〇二三年の三軒茶屋ではなく二〇二〇年の渋谷であるはずだった。
 どれほどの倍率だったのか今は知る由もない。けれどとにかく、公演チケットの抽選を私は勝ち抜いた。終演は遅い時間だったから宿も予約した。しかし疫病はそれらすべてを無視した。無視どころか考えもしなかった。
 予約システム上には今でも、未使用のチケットがデータとして残っている。

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小説家・此瀬 朔真によるよしなしごと。創作とか日常とか、派手ではないけれど嘘もない、正直な話。流行に乗ることは必要ではなく、大事なのは誠実…