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マッチングアプリで女友達を探したら

マリー・ローランサンの展覧会に、誰かと一緒に行きたかった。

誰でもいいならよかったけど、誰でもよくなくて、わたしは自分と同じように、パステル調の色やレースやりぼんが好きな人と一緒に行きたかった。

ローランサンの絵(パブリックドメイン)


思いあたる友達がいなかったので、インターネットの掲示板で、一緒に行く友達を募集した。恋人を探していると思われると困るので、「女の人」を探していると書いた。

しかし、ついたのは「男ですが行きたいです!」というコメントばかり。アイコンもガーリーじゃない。がっかりして、次は友達が探せるマッチングアプリに登録した。

そこでマッチしたのが、同世代のルルさんという女性。プロフィールを見ると、彼女もマリー・ローランサン展に一緒に行く人を探していたらしい。むこうから誘ってくれて、一緒に行く日時や待ち合わせ場所まで決めた。

メッセージを重ねるうちに、読んでいる本や趣味が似ているとわかり、「これは仲良くなれそう!」と期待がふくらんだ。ルルさんはボードゲームも好きらしく、「仲良くなったら夫婦4人でボドゲできるかも」とも考えた(うちにもいくつかボドゲがあるけど、家に招ける友達がいない)。

女の人同士で行くような内装のかわいいカフェを予約して、はりきって花柄のスカートも買った。


会う日の4日前。火曜日。アプリを開くと、なんとルルさんが消えていた。

調べると、表示が消える理由は、ブロックかアプリ退会のどちらからしい。あんなに気が合いそうで、彼女も楽しみですと言っていたのに、急にいなくなってしまった。

突然ふられてしまって落ち込むわたしを、家の人は「はじめてマッチングアプリをやって、女の子にふられた男みたい」と笑った。笑ってごめんと言いながらやさしく。

驕りかもしれないけど、気乗りしていないのなら、それを見抜けるだけの推察力はあると思ってた。もしかしたら、ルルさんはパートナーに止められるなりして、急にアプリを消さなくちゃいけなくなったのかもしれない(と思いたい)。パートナーとはいつも一緒に過ごしているようだったから。

あーあ。こんなふうに気が合いそうな女友達、なかなか見つからないのにな、とけっこうショックだった。


完全に女友達がいないわけじゃないけど、好きな装いが一致する友達はいない。

たぶん、似た服装の女の人と仲良くするのが苦手だったからだ。共感よりも、マウントの取りあいになるのを恐れて。自分がかわいくないことが浮き彫りになる気がして。

もしくは、その人のノースリーブのニットとタイトスカートから、性格をステレオタイプに想像して、仲良くなれそうにないと判断したのかもしれない。

そもそも女友達が少ない理由が明確にある。わたしは人としての魅力が少ないぶん、異性としてのプラスアルファを足さないと、仲良くしてもらえないと思っていたのだ。

同性の友達と遊ぶと、帰ってから絶対にひとりで反省会をひらいてしまう。ちゃんと楽しませることができたかな?って。異性の友達と遊んだあとは、あまり反省会を開かなくて済むので楽だった。なんだかこれも失礼な話だけど。

〜この話はもう10年前からしている〜


今はもう若い女の子じゃないし、結婚をしたので、ほとんどの場合、異性としての付加価値はつかないものとして人と接することができている……と思う。それはそれでしんどくて、慣れるまでに時間がかかったけど。

島本理生の『星のように離れて 雨のように散った』にも、同じような話が出てくる。主人公・春はおそらく20代前半。ある夏、親しくなった同級生の女性・売野に言われる。「あなた、自分が突然服装を変えてることに気づいてる?」

主人公・春は、もともと飾り気のない服を着るタイプ。でも、男の人に会う時は、シースルーのシャツや、風俗で初出勤の子が着るような服を着ていたようだ。

それも無意識で。

春の行動は、「自分には魅力が少ないから、そうでもしないと」と思っていたことからくるものだったらしい。

わたし自身は、物心ついた時からそういう服(シースルーシャツよりはクラシカルなものが好きだけど)が好きだから、決して無理はしてないけど。

春は、異性と会うときでも、異性として見られてはいけない場合には、襟のついたシャツにデニムという格好をする。わたしも、ひとりもしくは家の人と出かける時しか、肩に穴のあいたブルーのアンゴラニットを着られない。

異性だけじゃない。そういう服を着て同性の友達に会うと、「似合わないのに」や「男ウケ気にしてそう」って思われたりするのが怖い。かわいいと思うから着てるだけなのに。

このまえ、わたしより少し年上の女性作家さんに「そのセットアップすてきですね。どこのですか?」と聞かれた。CELFORDだと答えると、ああ、やっぱり!と。

あわてて「あ、でもCELFORDとかって、モテたい女の人が着るやつですよね」と言ってしまった。「そう? ちょっと昔流行ったデザインのニュアンスもある気がして、すてきだと思うけど」と返された。ほんとは、かわいいと思って選んだ服。褒めてもらえてうれしかったのに。


服装と自分自身のキャラクター、それにもとづく人との関係。昔、大学で軽音楽サークルにいたときも、好きな服がひとりだけ違う気がして、居心地が悪かったことを思い出す。なんとか同じ種類の人間だと思ってもらいたくて、まわりに寄せようとしていたけれど。思えば、あんまりうまくいってなかった。

そこにねじれがあるから、人との関係が結びづらいのだろうか。でも、服装とキャラクターが一致しない人もけっこういると思う。

大人になるにつれて、オフィスカジュアルというか、会社でも着られるシンプルな服を着てる人が多くなった気がする。服装は、もうあまり関係ないのかもしれない。

今日がルルさんとの約束の日だった。結局、体調が悪くて、待ち合わせ場所には行かなかった。かわいくて、この日にぴったりだと思って買ったスカートは、クローゼットのなか、まだ値札がついたままだ。

急に雨が降ってきた時の、傘を買うお金にします。 もうちょっとがんばらなきゃいけない日の、ココア代にします。