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フリーの編集者、静岡で夫と愛猫との生活

■自分に合った働き方を模索するうちにフリーの編集者に

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さやかさん(仮名) 42歳
前職は理数系の教科書を扱う出版社の編集者。結婚後、首都圏から静岡へ移住。フリーの編集者になり、今は自宅で仕事をしている。フリーランスの編集者の生活はどのようなものなのか、聞いてみた。

■書いた文字からもデザインゴコロが表れている
「すっきり」とした文字、「すっきり」とした性格、それでいて周囲を気遣うやさしさから来る「さわやかさ」。彼女のアウトプットからは、そんな表現がよく似合う。色でいうと、冷静な「寒色系」だ。あとからわかったのだが、彼女はやはり「建築」という学問からデザインを学んでいた。

■仕事に余裕があれば、混んでいない3時に役所やスーパーへ
現在は、以前勤めていた会社から理数系の本の編集を請け負っている。1度に300ページくらいの本を3冊ほど手掛ける。著者の先生が書いた原稿を受け取り、「てにをは」のチェックから、数式や本文、体裁のチェックなどを進める。チェックが済んだら、印刷所へ原稿を送り、刷り上がったら校正をする。
「朝7時に起きて、4匹の猫の食事作りや朝食を済ませます。9時から仕事を始めます。洗濯機を回したり、洗濯物を干したりしながら、校正を進めることもあります。時間の融通が利くところが、在宅のメリット。原稿を送る宅急便の持ち込み時間が18時半なので、急ぎのものは、そのくらいまでに仕上げます。もっと余裕があれば、午後に仕事を切り上げて、15時など比較的すいている時間にスーパーで買い物することもあります。」

大学は、私立の理工学部。建築を学んだ。高校生の時は、物理が好きで、大学受験は物理学科ばかりを目指していたが、父親から「女が物理をやって何になる」と言われ、周囲もあまりいい顔をしなかった。そんな時、建築学科の先輩が高校に来て公演をしてくれた。先輩が作った建築物の模型を見て、「建築って楽しそう!」と感じ、建築の道に踏み出した。

■世界はシンプル 新しいことを知れた喜び
「物理って、ミクロの世界も天体も大まかに言えば数式は同じ。大きいものも小さいものも同じなんだ、世界はシンプルなんだって感動しました。」
大学では建築の世界に触れ、世界が広がった。
「大学に入った時、建築についての知識なんてほぼゼロで。1年生の時、世界の有名な建築を見せてもらった時に、うわぁ、こんなかっこいい建物があるんだって世界が広がった喜びがありました。」

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↑ 上/ 世界の建築を紹介する雑誌 Architecture and Urbanism (a+u)
     下/GA JAPAN  大学生の頃から、建築雑誌を読むのが好きだった。装丁までカッコいい。


勉強するうちに、建築の魅力がわかってきた。

「建築の世界って、3つの柱がある。見た目と技術と予算。見た目のきれいなところが工学的な技術と高度な次元で融合されていて。かっこいい。相当な技術。あとは限られた予算でとうやって作るか。その中で作る人がどれだけ情熱をかけてやっているのかが見える。」
彼女の仕事に対するシンプルさは、今まで学んだこと、そこから感じ取ったことが深く関係しているようだ。

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↑ 愛用の文房具。スタビロのマーカーは色がきれい。ステッドラーのシャープペンシルは、製図用なので学生時代から使っている。

就職は、まわりが大手ハウスメーカーやゼネコンを目指す中、「自信をもって自己アピールができない」、「自分は、大きなお金がかかる家や建築物を手掛けるイメージがもてない」という理由から、建築業界とは別の道へ。当時、建築雑誌を作ってみたいが何から始めたらいいかわからなかったので、最初は、印刷会社のオペレーターとして働いた。オペレーターは、出版社などから来る原稿を、専用のソフトを使い、デザイン、レイアウト、組版などをコンピュータで行い、最終的に印刷可能な原稿(版下)にする。オペレーターとして1年働いた後、教材を作る出版社へ編集として就職した。

結婚後、旦那さんの仕事の関係で、静岡へ移住。フリーランスとなり、働いていた会社から編集作業を在宅で請け負うようになる。
「派遣で働いていたこともあったけど、そんなに稼げないし、毎回新しい職場って緊張するし。家でする仕事のほうが合っているかな。」

■愛猫4匹に癒されながらの暮らし
「前に実家で飼っていたペルシャ猫のキャンディは、ベッドに入ってきたりとか、お膝抱っこさせてくれなかったけど、今の猫はみんなしてくれる。」
愛猫4匹は、どの猫もペットショップに探しに行ったわけではなかった。
黒猫の「ナオミ」は、当時派遣先だった知り合いの人が、近くで猫が子どもを産んで困っていたところをもらいに行った。旦那さんはもともと犬派だったが、「ナオミ」があまりにかわいかったので猫好きに。2匹目の「サラ」は、動物病院で。足を怪我している「サラ」の張り紙が半年近くもあり、ナオミの遊び相手になればと、もらうことにした。「茶太郎」は迷い猫。「ヒメ」は高速のパーキングエリアで怪我しているところを保護した。

彼女はいつも「放っておけない」性格なのだ。筆者が編集者になったばかりの頃、教材の作り方を1から教えてもらった。組版の仕方から校正のチェックの仕方まで丁寧に何度も教わった。当時の筆者は、入社したばかりで、まわりのことがよくわかっておらず、わからないことがあると、すぐにその都度彼女に聞いていた。今考えれば、わからないことをいちいち聞いてくる後輩なんてウザいと思うが、彼女はその都度丁寧にわかるように教えてくれた。筆者が現在、編集者として無事にやっていけているのは、彼女の教えがあったからだ。
「こまめにデータはセーブ(保存)する。」「データを直す時、直したところはマーカーでチェックを入れて、刷り上がったらもう一度、色の違うマーカーでチェックする。」など本当に基本中の基本だが、これらが意外とミスを減らすことに直結するのだ。

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↑(左上から時計回りに)ナオミ、サラ、ヒメ、茶太郎
ナオミの性格は、ネクラで、部活で言うと漫画研究部。サラは、チアリーディング部。今も距離を保ちつつ、過ごしているそう。


■人の知識に、公平に携われる仕事
「手掛けた本の著者の先生から、ここ、気づいてくださって、ちゃんと見てくださってありがとうございますと言われると嬉しい。本の紙面レイアウトを考えるのも楽しい。ここの見出しはこの文字を使おうとか。本って1冊何千円だけど、知識って公平なものだし。それに携わっている喜びがあります。」

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一方で、仕事に専念しようとすればするほど、家族に迷惑をかけてしまうと思うことがある。

「夫は私が家にいるのが原則っていうのが頭にあるみたいで。仕事で、東京に行かなきゃいけないっていうと、なんで?って言われたり。会社の人からも、おうちの人ごはんとか大丈夫なんですか?って。逆に旦那さんが出張したって、そんなことは聞かれない。女が家をあける前提がなかなか浸透していないなって。」

気になる年収について聞いた。1冊300ページの編集作業を請け負うと、料金はおよそ30万~40万円。一度に請け負う冊数は3冊が限度。それを3~4か月で仕上げる。この工程を時期をずらして1年で3サイクルできれば、年間で300万円前後稼ぐことができる。

立て込んだ仕事が入っていても、誰にも頼れないし、自分ひとりで環境を整えて仕事をする難しさがある。
「ちゃんとした仕事部屋があるほうがやりやすい。前は家の居間でやってた。そうするとダラダラしてしまう。あと、孤独感を感じやすい。自分ひとりしかいないので、終わらなかったら自分の責任。ミスもできるだけないほうがいい。アウトプットがそのまま仕事の評価につながるので、次からの仕事量にも直結する。」

■東京に戻りたい
「地方は、移動が間違いなく不便。車があるからいいじゃんって思うかもしれないけど、車は人の命を奪うものだし。運動不足にもなるし。ずっと首都圏で育ってきたし。ここは、ずっとこの地に住んでいる人が大半。大世帯で暮らしている。よそ者感がある。東京は美術館とか本屋とかすぐに行けるし。今の仕事を続けながら東京に戻りたいです。夢のない話ですみません!」

収入が不安定で、国民年金が少ないのが悩み。一方で、時間に融通が利き、自分裁量で働けるという自由な面もある。

日々の生活の中で、何を優先したいか、そのためにどんな仕事ができるかを考えていく。
「フリーランスの編集者」は、大変な面もあるが、やはり「世の中に役立つものを作っている」という「やりがい」が大きく関係している仕事だと思う。

さやかさん
1978年 東京都江戸川区に生まれる。
1994年 都内の私立女子高校へ入学。
1998年 私立の理工学部へ入学。建築学科。
2003年 北海道の印刷会社で、オペレーターとして入社。
2004年 中学生用の会場テスト制作会社へ編集として入社。数学の問題作成を手掛ける。
2008年 理数系の出版社へ入社。編集部で、おもに大学関連の理数系教科書の担当。
2010年 結婚 神奈川県川崎市へ引っ越す。
2014年 理数系の出版社を退社。フリーランスの編集者となる。
2016年 静岡県磐田市へ引っ越す。最初の猫「ナオミ」を飼う。
2020年 フリーの編集者6年目。


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