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象潟&三種への道⑫

午前11時、道の駅象潟「ねむの丘」に到着。Googleで「象潟 牡蠣」と入力すると、まず出てくるのがここだ。
平日の午前中だし、そこまで混んでいないと思っていたが、広い駐車場は車で埋まっている。
「牡蠣」の幟の翻る建物に入ると、すぐに牡蠣をはじめとした地元の水産物を扱うお店が並んでいる。予想外の活気に圧倒されながら奥へと進んでいくと、ラーメン屋さんやイタリアンなんかもあり、天井の高いホールのような場所でみんなテーブルを囲んで思い思いに何か食べている。
中国人や韓国人も多い。家族でカニを食べている人もいる。ざっと見たところ、牡蠣は1個400円~700円くらいが相場らしい。
拠点となるテーブルを一つ確保し、それぞれ気になるお店に向かう。とりあえず600円の岩ガキを一つと、なぜかお刺身の盛り合わせ(はまち、甘エビ、赤貝)も買って戻ると、後からT先生も岩ガキ数種とトウモロコシを持って戻ってきた。
朝食から2時間程度しか経っていないのでお腹はたいして空いていないが、「せっかく来たのだから」という気持ちが胃の活動を刺激しているようだ。見るものがみんなおいしそうに見えるから困る。
ここでも調子に乗ってカキフライまで食べてしまった。お土産屋さんなどを一通り、眺めて出発。
お腹は全く空いていないが、名前が気になっていたその名も「さかなやさん」へ。
ここは名前の通り鮮魚店がメインのようだが、奥の和室で定食が食べられるようになっている。決して繁華な場所ではないが、お店の中は10畳ほどのスペースがほぼ満席だ。お店に入るとまず注文を取るシステムのようで、目の前に並ぶ魚の中から、店主らしきおじさんに調理法(焼き、煮つけ、刺身など)を伝える。いかにも漁港の魚屋さんといった風情の店主が「メバルが良いよ、煮つけが最高」と言うので、素直に従い、岩ガキもあるというのでそれを一つと、サザエも美味しいというのでお造りにしてもらう。ちなみに、つぼ焼きは「面倒だからだめ」とのこと。
席に着くと、隣には大学生くらいのカップルが座っている。若者がデートで来るにしてはかなり渋めのお店のような気がするが、それだけ美味しいということだろう。

20分ほど待って、煮魚定食が出てきた。レストランの待ち時間としてはやや長いが、さっきまで店頭にいた魚を煮つけたのだと思えば早いくらいだ。
メバルに箸を入れると驚くほど柔らかい。ほろりと崩れた身は真っ白で、かかっているたれを纏わせてもまだ白い。
口に入れたときに最初に来るのは魚本来の香りで、少し遅れて甘みのほとんどない、キレの良いたれの味が追いかけてくる。身の奥まで味の染み込んだ煮付けに慣れているせいで少し驚いたが、これは魚によほどの自信がなければできない技だと思う。
岩ガキは言うに及ばず、サザエもコリッコリの食感楽しく、ご飯こそ少なくしてもらったとはいえ、気が付けば完食していた。象潟おそるべしだ。
再び丸くなったお腹をさすりながら、次の行先を考える。そう、ここからはノープランだったのだ。T先生の発案で「ねむの丘」にあったポスターをヒントにスマホを調べると、「鳥海山の元滝伏流水」に行き着いた。ここからだと30分ほどで着くということなので、とりあえず行ってみようとアクセルを踏む。
なにやら人気のない山道をしばらく行くと、広い駐車場に出た。どうやらここがその場所らしい。駐車場には私たちの他は車は3台ほどしかない。車庫入れの練習し放題だ。
看板の指示に従って道をわたり、整備された林道へと入っていく。きれいに舗装された砂利道を5分ほど歩くと、せせらぎが聞こえてきた。見ると、道の脇を水が流れている。その流れの上流に向かって歩き続けること数分。途中、道が少し険しくなったあたりから、周囲に霧が漂い始めた。外気温は30度を優に超えているはずだが、霧の中に入ると一気に涼しくなる。
滑らないよう濡れた足元を確かめながら進んでいくと、林が途切れた先に滝つぼが現れた。
滝というと、大量の水が一筋になって流れ落ちるものを想像するが、この元滝伏流水は、崖のような壁面のそこかしこから幾筋もの水が噴き出している。
壁面も、滝つぼから顔を出している岩も緑の苔で覆われている。崖の上の木々の緑で直射日光が遮られているため、木漏れ日が霧に反射して、空間全体がうっすらと緑色に発光しているようだ。あの何のへんてつもない駐車場から徒歩15分程度でこんな場所に出るなんて、誰が想像できただろう。
T先生は「屋久島に似ている」と言っていたが、まさに「もののけ姫」の世界。コダマがそこかしこでカタカタいっているような場所だ。平日ということもあって、あまり人がいなかったのも幸いだった。
圧倒的な大自然の中、しばし邪念を忘れてぼんやりと佇む。ただ呼吸をしているだけで、体内が浄化されていくような気持ち良さだ。「ここに来られて本当に良かった」、心の底からそう思った。

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