コノハズク

拙いですが創作を書かせていただいております。 宜しくお願い致します。

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マガジン

  • 縁の小説家

    他サイトでも公開している創作を集めたものです。 縁の小説家、木菟の周囲で起こる奇妙な物語です。

最近の記事

    • パスタの味

      • 木菟と女郎蜘蛛

        木菟はその夜も真っ白な原稿用紙の前で口を引き結び、唸っていた。 「木菟先生、どうしたんですか?」 同居している経凛々が茶を淹れ、木菟の前に置いた。 「怖い顔してますよ。お茶を淹れましたから、少し休んでください。」 「ありがとうございます。」 木菟は経凛々を振り返り、力なく微笑んだ。 「小説のネタが浮かばなくて。どれもぱっとしなくて、全て途中で行き詰まってしまうのです。」 「小説家も大変ですね。」 言いながら、経凛々は原稿用紙を一枚食んだ。今の彼の主食なのである。 「ああ、何か

        • 木菟と髪切り

          冬堂美子は鏡台の前で、鼻歌混じりに髪を結っていた。 腰まである黒髪を、手際よく纏めてすっきりと結い上げていく。 鏡を覗き込んで微笑んだ顔は、薄化粧に映えていた。 今日、彼女の機嫌がいいのには理由がある。木菟と一緒にデパートの新年初売りセールを見に行く約束をしているのだ。 『経凛々さんの洋服も、あれだけではいけませんからね』 木菟はそう言って笑っていた。 「…あ、そうだわ。」 美子は鏡台の引き出しを開け、玉のついた螺鈿のかんざしを取り出して髪に挿した。 このかんざしは、美子が母

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        • 縁の小説家
          6本

        記事

          木菟と吹雪の初夢

          木菟の住むこの街には、まとまった雪が降らない。 昨今の地球温暖化のせいかは分からないが、同じ県内でも木菟の住む街周辺だけが白魔から逃れているのである。 その為、木菟は雪の描写が苦手だ。 しっかり見たことがないものを文章に書き表すのは、至難の技である。 しかし、そんな彼にも過去に一度だけ、雪を見た記憶がある。 はっきりとは思い出せない、おぼろげな記憶。 誰と見たのかも分からない、銀世界の記憶である。 ー 「雪が、見てみたいのです」 年の開けた1月1日。 いつものように六花のカウ

          木菟と吹雪の初夢

          木菟と吹雪の初夢

          木菟の住むこの街には、まとまった雪が降らない。 昨今の地球温暖化のせいかは分からないが、同じ県内でも木菟の住む街周辺だけが白魔から逃れているのである。 その為、木菟は雪の描写が苦手だ。 しっかり見たことがないものを文章に書き表すのは、至難の技である。 しかし、そんな彼にも過去に一度だけ、雪を見た記憶がある。 はっきりとは思い出せない、おぼろげな記憶。 誰と見たのかも分からない、銀世界の記憶である。 ー 「雪が、見てみたいのです」 年の開けた1月1日。 いつものように六花のカウ

          木菟と吹雪の初夢

          木菟と経凛々

          その日木菟は久々に筆を執り、新たな作品の執筆に励んでいた。 「ああ…。」 木菟は溜息をついた。どうもまた行き詰まったらしい。 「…今回のテーマは失敗だろうか。白紙に戻そう。風呂にでも入って、少し休憩しよう。」 ペンを置き、木菟は席を立った。 風もないのに原稿用紙がめくれ、傍に置かれていた彼の眼鏡を包んで消えたのには、全く気付いていないようだった。 ー 「どうされましたの、先生。」 翌日、六花はカウンターに肘をついて何か考えている様子の木菟に尋ねた。 「今日は何だか口数が少ない

          木菟と経凛々

          木菟の聖夜幻想

          基本無宗教である日本人は、盛り上がるものであればなんでも国内に取り入れる。 ハロウィンなど、その最たる例だ。近年になって急に街を仮装した人々が闊歩するようになった。 かくいう木菟も先日のハロウィンの日、電車に乗ったところたまたま仮装グループの一団が乗り合わせており、その異様な雰囲気に閉口した覚えがある。 そんなハロウィンが過ぎると、日本人の興味は次のビッグイベント、つまりクリスマスに移る。 街は赤と緑の定番カラーに包まれ、通りは鮮やかなイルミネーションに覆われる。 木菟も美し

          木菟の聖夜幻想

          木菟の映る水鏡

          冬堂美子は、小さな喫茶店を1人で経営する逞しい女性だ。 そんな彼女は店の二階に独り住いで、家事も仕事も全て1人でこなす。 その疲れによる苛々を客にぶつける事もせず、常に笑顔を絶やさない器の大きな女性。それが冬堂美子だ。 そんな彼女の楽しみは、週に一度やってくる客によってもたらされる。 文筆業を生業とするその客は、世間から見れば相当な変わり者。 売れもしない小説を書いては、一部の好事家から届く僅かな感想に顔を綻ばせている。 まともな人間からすれば馬鹿にしか見えない生き方だが、本

          木菟の映る水鏡

          木菟に蠱毒

          木菟の朝は遅い。 夜型の人間であるため、昼はどうしても眠くなってしまうのだ。 しかし、日曜の昼の日課は欠かさない。 彼は真っ白な原稿の前を離れ、マフラーを巻いて外へ出た。 外の冷え込みは一段と強くなっており、木菟の眉間にも自然と深い皺が刻まれる。 通い慣れた道をゆっくりとした足取りで歩いていくと、いつもの店先が見えてきた。 「喫茶・六花」。 木菟の日曜日は、ここから始まる。 ー 擦り硝子の扉を開くと、いつもと同じ美子の笑顔が出迎えてくれた。 「そろそろいらっしゃる頃だと思って

          木菟と白足袋

          白足袋を履いた動物は縁起が悪い。 古来より伝わる、伝説というよりかは言い伝え…。 そこまで書いて、木菟は筆を置いた。 木菟と言っても、耳のような羽冠のある鳥ではない。れっきとした人間である。 彼は冴えない小説家。パッとしない迷作ばかりを世に送り出す、仕様のない小説家である。 しかし、本人は自分の現状に不満はないらしく、数人の物好きなファンが自作を読んでいるというだけで満足なそう。 そのため執筆はマイペース。いつ新作が出るかは常に謎。 連続して出したかと思いきや、いきなり半年の

          木菟と白足袋