新幹線の駅のホームで(2)
夜遅くに福山駅に着いた。駅のホームに、扉を開けっぱなしにした列車が止まっていた。運転手さんも車掌さんもいない様子で、列車は車内の灯りが消えて真っ暗な洞穴のようだった。真っ暗なのに、シートに座っている人がいる。普段見慣れた阪急電車の駅とあまりに様子が違うので気味が悪かった。
そのうち突然列車のパンタグラフが上がり、架線に当たって青い火花をバチバチッと散らした。列車がそんな動作をすると知らなかったわたしはすっかり縮み上がってしまった。
各駅停車に小一時間ほど乗り、ようやく着いた最寄りの駅を出てしまうと、もうそこは街灯もない田園の夜道だった。大きな樹や竹藪の黒い影が覆いかぶさる坂道を母のあとに従いて上った。道の片側は一メートルほど落ち込んで用水路になっている。水の量は少なそうだったが、柵ひとつあるわけではない。落ちたらどうしよう。怖くて泣きそうだった。早足で前を行く母に、「ママ、手ぇつないで」と呼びかけた。返事がない。「ママ!手ぇつないでッ!」何度も繰り返したが母は振り向きもしなかった。せめて、スカートの裾でも掴んでいたかったのに、わたしは母に追いつくことができなかった。
・夜の川を怖れ泣く子をかへりみず母は歩めり若くけはしく 十谷あとり
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