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猿彦が寺へ通い始めて半年が過ぎた。寺で雲十の読経と説法を聞き、昼間は松之助たちと希望いっぱいに山を切り開き海を埋め立てる生活は、今までにないほどに充実していた。体も細いながらも筋肉が付きがっしりと大人の体型になって来た。目つきも死んだ魚のように虚ろだったのが、水を得た魚のように潤い輝いている。今まで感じたことのない充実感で生きている猿彦であった。
天草で大変身を遂げていく猿彦。早朝のまだ明け切らない暗闇を寺へと通い、日中は黙々と農作業に邁進し、夕刻の空が赤くなる頃にはまた寺への坂道を歩いた。
熱心に通ってくる若者に、寺のご院主は嬉しさを隠しきれなかった。
そんな白梅の咲く延慶寺にはもちろん本堂があった。門戸たちに開け放たれたその中へ入った猿彦は、目のくらまんばかりの黄金の仏像に釘付けになった。漆箔の施された全身は太陽のように光を放っているのだ。
人を増やす為に移住を推進する天草藩。そうは言っても、独り身の猿彦は歓迎されなかった。移住できるのは子どものいる夫婦。これから子孫を増やしていける若者だけであった。しかし移住の資格がないとは言え、まだ十八歳の猿彦なのだから女も子どももこれから。いくらでも可能性はある。
千葉城は熊本城の東にある。白川の南に位置する浜次郎の家から、白川沿いに三里北へ行けばたどり着く。猿彦は足を泥だらけにしながらも、(あのお侍に今一度会いたいと!)と、弾む心で宮本武蔵の元へと駆けて行った。