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手術用縫合針はなぜ曲がっているの??

こんにちは!オペ子です。

先日、手術用縫合針の風貌や、基本的な持ち方などを記載させてもらいました。

今日のテーマは手術用縫合針は、なぜ曲がっているのか??

私がこの縫合針と初めて触れ合ったのは、看護師1年目の病棟勤務の時。担当患者さんの腸瘻固定が外れてしまったので、医師に報告をしたところ、「じゃあ今2~3針縫ちゃおう!」となりました。初めての縫合だったので、医師に準備物品を教えてもらいながら、準備を整え、いざ処置をするとなった時、縫合針のパッケージをあけると針が曲がっているではありませんか。これまで見たことのない形状にびっくりしたことを覚えています。

きっと縫合針を初めてみた人なら思うはず。「縫合針はなぜ曲がっているのか??」今日は、そんな謎を解明したいと思います。

方法としては、まず文献から針がなぜ曲がっているのかという理由をピックアップ。そのあと、実際に試してみることで、なぜ真っ直ぐな針ではいけなかったのか、どういう理由から針が曲がったのかを考察してみたいと思います。

教科書を見てみました

まずは曲がっている理由は、どのように説明されているのか?医学書を何冊か探してみました。

”一般的な布を縫う針は、針に対して布を自在に動かしていくので、真っ直ぐでよいが、生体を縫合する場合は、組織を曲げたり畳んだり自由に動かすことは難しい。そこで組織に刺した針が弧を描いて再び表面に出てくるように、ほとんどの場合、弯曲した針を用いる。”            

「動画ベーシックテクニックⅠ 外科の基本 動画でまなぶ切開・結紮・縫合」真船 健一著

”直針を手で持って縫う方法は一番単純な縫合であるが、その応用は限られる。深部組織を縫合するには曲針とこれを保持する持針器が必要である。”

「標準外科学 第10版」小柳 仁監修

つまり縫合針が曲がっているのは、①縫合の対象に可動性がないこと、また②縫合の対象が深いところにあることで、真っ直ぐな針では操作が難しいということに大きな理由があるようです。

そこで、次は、①縫合の対象に可動性がないこと、また②縫合の対象が深いところにあること、それぞれの条件下では、本当に直針では縫うのが難しいのか、モデルを使って再現してみて検証しようと思います。

検証してみました

①縫合の対象に可動性がないと、直針で縫うのは難しいのか?

①を検証するため、直針である裁縫用の針に糸をつけて、透明なブロックの面同志を傷にみたて、そこを合わせるように縫合をしてみました。可動性がないという設定なので、ブロックは持ち上げたり、位置をずらすことなく、縫合してみます。

裁縫用直針
組織にみたてた透明ブロック

両方のブロックを動かさない状態で針を通すのはなかなかの至難の業。。。
とにかく2針縫合してみました。

針を貫通させた写真

こちらが2針縫合した写真です。

2針縫合後

一見縫合できているようにも見えますが、裏返してみると、、、

裏返してみるとぱっくりわれてしまう

ぱっくりと割れてしまい、傷にみたてたブロックの端と端の面は、もはやくっついてもいない状態です。

少し厚みを持たせて縫合しようと試みると、針先を再び表まで出そうとするときに、組織自体が持ち上がってしまいました。可動性がない中で、厚みを持たせ組織と組織を縫合しようとすると、直針では難しいことがわかりました。

厚みを持たせて縫合しようと試みたが、、、

一方、曲がった縫合針で縫ってみると

手術用縫合針を刺通している様子

容易に深くまで刺入でき、なおかつ表にも針先を出してこれる!なんとも簡単です。

同様に2針縫ってみましたが、裏返しても組織がぱっくりすることはなく、

2針縫った後

断面を見ても、表面から深いところにちゃんと糸が通っているのがわかりました。

表面と組織の真ん中を通った糸がしっかり輪になっています

このように、布とは違い、組織は立体的で、なおかつ動かないので、面と面を合わせるために深く刺入する必要がある組織の縫合は、直針で縫うのは難しく、曲がっている針の方が向いていることがわかりました。

②縫合の対象が深いと、直針で縫うのは難しいのか?

手術では、皮膚の傷だけではなく、お腹の中の臓器を縫合する場合もあります。その時は、体の表面ではなく、腹腔内の深い位置での縫合が求められます。②の検証では、縫合の対象が深い=腹腔内での縫合ということを考え、腹腔内の状況での縫合を想定して行ってみようと思います。

今回写真のようにして、腹腔内を再現してみました。青い線が傷、風船が臓器、黒い土台が骨格と思ってください。直針と曲がった針で、奥の青い傷を縫合してみたいと思います。

腹腔内モデル

まずはそもそもで手で縫えるのか?手で直針を操り、縫合を試みてみました。私の51/2の手でも、スペースがなく、手が入らず、青い傷まで届きませんでした。

青い傷を縫おうとしているが届かない

持針器を使ってみると、確かに青い傷まで届くことができました。持針器って素晴らしいですね!ただ、針が真っ直ぐなため、傷の深さまで持っていくだけで、針先や、糸通し部分が風船に引っ掛かりそうになり、差し入れるだけで怖い感じがします。。。

持針器を使用して、やっと傷に到達

直針で、青い傷を縫ってみようと思います。針先を刺そうとすると針を一度大きく横に動かさないとさせなくて、まず刺すのが難しく感じました。何とか風船の隙間をぬって動かし、刺すことはできたのですが、動かせるスペースが足りず、針先を表に出すことができません。針先の操作も難しく、とにかく自由が利かない!!まったく縫合することができませんでした。これだと、腹腔内止血のためなど、ピンポイント差が求められる縫合なんていうのは、とても行うことができないと感じました。

針先を出そうにも、スペースがなく、無理にやろうとするとほかの風船を傷つけてしまいそう

一方、弯曲のある手術用縫合針では、手首を返すだけで、容易に針先を表に出すことができました。針をかける深さなども調節が利き、思ったように操作することができました。

手首を回すと、刺したいところに刺したい幅で刺すことができた

検証の結果、腹腔内の深いところで縫合をするときには、深さだけでなく、狭さもあり、直針だと運針にスペースが必要なため、腹腔内での可動性が制限され、自由な操作が難しく、コンパクトに操れる曲がった針の方が向いていることがわかりました。

検証結果より

医療用の針が曲がっているのは、対象物の可動性がないこと、深く狭いところで使用するため、縫合動作のスペースが不足していることから、直針では限界があり、それらを可能にするために工夫されたものだということが想像できました。

まとめ

裁縫とは違い、手術中の縫合は、立体的で可動性がない組織を、深く狭いスペースで、安全に、自由に、しっかり縫う必要があり、針の弯曲が大切な役割を果たしていることがわかりました。

次は、大事な役割を握っているその弯曲について、説明したいと思います。

本日も最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

株式会社 河野製作所
1970年5月設立。2020年に50周年を迎えた医療機器メーカー。手術用縫合針を中心とした医療機器の製造販売を行っている。代表製品には、マイクロサージャリー用縫合針、TSUGEループ針、ASFLEX、ORIHIME等がある。

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