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短編小説 なんとワンダフル! コタロウの異世界ライフ

カテゴリー 

①異世界転生 ②動物転生 ③ファンタジー ④癒し


キャッチコピー

業界初! ワン公が主人公の異世界転生癒し系ストーリー!


あらすじ

ある日、コタロウはヒロシと散歩している途中、ヒロシをかばい車にはねられて死んでしまう。


そして、異世界ルマニアに転生したコタロウは、なんとこの世界の魔王幹部コンヤニに拾われてしまう。


そう、実はコタロウはヒロシが飼っている犬だったのだ!

おそらく異世界転生初の動物転生!

一体どうなってしまうのか?

それは誰にも、筆者にも分からない…。


参考

※【カクヨムWeb小説短編賞2020作品 中間選考突破作品になります】



第1話 なんとワンダフル

「まてー、コタロウ!」

 ヒロシは俺コタロウを全力で走り追いかける。

 俺コタロウとヒロシは小さい頃から仲が良かった。

 血は繋がっていなかったが、ヒロシが赤ん坊の頃から今の小学一年生になるまで面倒を見た仲なのだ。

 最近ヒロシは成長して、走るスピードがまた速くなった。実際の兄弟ではないが、小さい頃から成長を見守っている立場としては微笑ましくもあり、嬉しいものだ。

 と、考え事をしていたら、後ろから大きなトラックがヒロシ目掛けて突っ込んでくるではないか!

 危ない!

 危険と判断した俺は、ヒロシに体当たりし…。

キキーッ! ドンッ…
 暫くの静寂の後、俺は意識が薄れていく中、ヒロシが泣き叫んでいる姿を見た。

「誰かっ、コタロウがコタロウがーっ!」

 よ、良かったヒロシが無事で…本当に…。

   ♢

 …ん? ここは?

 何やらあたり一面に白い空間がある。はて?

「ようこそ異世界ルマニアへ、私は女神アリナ。この世界の管理者の一人です。貴方は事故に遭いここへ転生されたのですよ?」

 不思議なことに俺の頭に直接声が響いてきた。

「え? あっ」 

 そう、なんと俺は立っていたのだ。二足歩行で。顔を触ってみるとツルツルだ。

「そう、貴方はここに人間として転生したのですよ?」
「えっ? 元の姿に戻してください」

 俺は必死になって訴えた。

「ごめんなさい、条件つきになりますよ?」
「お願いします!」

「…いいでしょう、ではとりあえずえいっと」

 なんと俺は元の姿の犬に戻れたのだ。

「うーんポメラニアン? いや、雑種ですか…」
「雑種言うな! あれ?」

 そう、犬の姿に戻れても喋れるのだ。

「とりあえず、好きな時に元に戻れる能力を付けときましたので、人間の姿と使い分けてください」
「おお、女神様ありがとう!」

 俺は尻尾をぶんぶん振り回し喜んだ。

「まあ…可愛い…あっと本題を忘れてました、うっかり」
「?」

「実は貴方にこの世界の魔王を倒して欲しいのですよね?なので人として転生させたわけですが…」
「えっ無理ですよ? 俺犬ですよ? 人であるヒロシがゲームをプレイしているの見たけど、ラスボスはつぇーて言ってコントローラー投げて壊してましたもんね? 俺の知能じゃ無理でしょ?」

「そこなのですが、実は手違いがあって…」

 女神から話を聞いたところ、転生者にはヒロシがなる予定だったが、俺がかばった関係で予定が狂ったとのこと。アレ? じゃあのトラックの動きがおかしかったのって…?

「とりあえず、俺元犬ですよ? 他をあたったほうが良くないですか?」
「そこなんですが、この異世界選抜は百年に一度しか行われないので、次を待つと世界が確実に滅んでしまうんですよね」

「ええっ!」
「後、この世界が滅ぶと貴方の世界との行き来できるゲートの封印が解かれことになります。そうなると結果ヒロシさんにも被害が及ぶことになってしまいますよ?」

「えっ? うーん…」
 
 俺の両耳はぐったり倒れてしてしまう。
 正直早く元の世界に帰りたかったが、ヒロシに害が及ぶのだけは避けたい。

「…女神様わかりました、では何か強力な武器防具及び能力を俺にくださいっ!この手の奴は何か強いやつが貰えるってヒロシが言ってましたっ」
「あっ…えーと大変言いにくいのですが…もう能力は授けられないのですよね」

「え」
「『本人が強く思う願いが一つ能力として授けられる』のがこの世界へ転生した時のルールなんですよね…」

「ええっ!」
「あ、でも大丈夫です。そこから能力が数珠繋じゅずつなぎで派生する仕組みになってますので…そう、アレ?」

 女神は何故かしばらく無言になっている。どうやら考え事をしているようだ。
 俺は暇なので尻尾をパタパタ振ったり、頭を掻いて待つことにした。
 
 それから待つこと三十分。

「あっ、えーとお待たせしました。ちょっと上司に相談してまして、特別にもう二つつだけ能力を授けます。『人間の姿になった時にサイズが合う服』と『どの種族ともコミニケーションが取れるスキル』を授けます。これで何とかしてください」

「えっ? 武器とかは?」
「…元々人間じゃないから授けられないそうです…上司達も喧嘩してて、もう何が何だか」

「ええっ?」
「すいません、後はマカセマス…私も事後報告とかしないといけないので、では良い旅を…」

 そして気が付くと俺はどことも分からない大草原に投げ出された。

「ふっふざけんなー!」

 俺の怒りの雄たけびは、大草原にキャンキャンと空しく響いていた…。


第2話 新しい飼い主

数時間後

「ここはどこなんだろう?」
 
 周りは草だらけで、たまに木が数本生えている、ただっ広い草原というのはわかるけど、土地感もないしさっぱりだ。

 異世界に来た実感だけが湧いてくる。

 とか考えていると、前方から何やら声が聞こえてくる。

「ふんふんー♪」

 どうやら鼻歌を歌っているようだ。

 遠目で後ろ姿を見る感じ、二足歩行で移動している。
 助かった人だ。

 俺はダッシュで鼻歌が聞こえる場所に移動した。

「ん? なんだ?」

 相手も俺に気づく…。
 アレ? 顔がネコいや…あれは虎? ってうわわっ!

 これはヒロシのやっているゲームで見たことがある。
 《《動物の顔に人の姿、獣人》》って奴だ。確か人の言葉を理解でき知性が高く、戦闘力が高い生き物ってなんか言ってたな。

「おお…可愛いなこいつ…オオカミっぽいが? はて」

 俺はトラ顔の人に抱きかかえられた。
 クンクン、匂いを嗅いだ感じ、見た目は怖いが敵意や殺意は感じられない。

 いい人? ぽい。よし確認しよう。

ペロペロ

「うわっ! 顔をなめるなっ。くすぐったっこいつっ」

 トラ顔の人は驚いていたが、笑顔で頭をでてくれた。
 よし、いい人だ。

「お前腹減ってるっぽいな…よしよし干し肉をやろう」

 ワンワン。尻尾を千切れんくらいに振る俺。
 美味いっ何の肉か分からないけど。
 
 俺は尻尾をふり、トラ顔の人の周りを嬉しそうに回った。

「ありがとう、美味しかったですっ」

 驚いた顔をし、こちらを見るトラ顔の人。

 しまったっつい喋ってしまった。

「おまっ? 喋れるのか?」
「えっ? いや気のせいだワン?」
「えっいや、思いっきり喋っているよな? 今も?」

 俺は咄嗟とっさに話題をそらした。

「…えっと実はですね、飼い主とはぐれてしまって…」
「えっ? 何処から?」
「遠いとこです…漂流してしまったみたいで…」

 遠い目をし、夕日の沈みかけた太陽を見つめる俺。

「そ、そうか、お前名前は?」
「コタロウです。貴方は?」
「…俺は雷獣コンヤニだ」

 しばらく目と目があったまま沈黙が流れた。

「お前嘘は言ってないみたいだな。俺の名前を聞いても反応がなかったし」
「?」

 俺は首を傾げた。

「まあいい、お前俺についてくるか?」
「ワンッ!」

 俺は力強く吠えた。

「はっはっは、そうかそうか。返事は鳴き声なんだな」

 コンヤニは笑いながら俺を抱きかかえた。

 どうやら俺は新しい飼い主候補を見つけることに成功したようだ。

「コンヤニ様っー」

 遠くから声が複数聞こえてくる。

「今いくまってろー」

 大声で返事をし、複数の声が聞こえる方向に移動するコンヤニ。

「悪いまたせたな、ちょっと拾い物をしてな」

 俺に視線を向けるコンヤニ。

「おお、食糧ですか?」
「馬鹿ッ飼うんだよっ」

 大声で怒鳴るコンヤニ。

「ひいっ、すいませんっ」
「次その冗談をこいつの前で言ったら、お前の頭は胴から離れるということを覚えておけっ!」
「は、はいいっ!」

「お前馬鹿だなー新入り…コンヤニ様は小動物を何体か飼っているペット好きなんだぜ?」
「り、理解しましたっ」

 …とりあえず、命拾いしたようだ。危ない危ない。
 優しいコンヤニに見つけられてほんとに良かった。
 こいつらに先に見つけれたら、そう思うとゾッとした…。

 色々あったが、俺はコンヤニに連れられ、コンヤニの住処に行くことになった。


第3話 無理ゲー

数時間後コンヤニの住処

 俺達は様々な場所を通り、最終的に巨大な岩城にたどり着いた。

 夜になっているからか、周りが瘴気に囲まれているからか、薄暗く禍々しいイメージだ。

 あ、もしかしてここ、ラスボスの城? いやまさかね? 流石に女神様そんなスーパーハードモード用意してないよね? 俺犬ですよ?

 そんなことを考えていると、城の門前に門番達がずらりと並んでコンヤニ達をお出迎えをしていた。

 そんな中、真ん中に威圧感があるお偉いさんが立っていた。見た目人間ポイけど、口からは鋭い牙が見えるのと、目が真っ赤であるため残念だが違うだろう。

 長身で端正な顔立ち、スタイルがよく黒いローブに身を包んでいる。恐らくヴァンパイアってやつだろう。人の生き血を吸い、コウモリなどの変身能力がある不死身のモンスターだったな確か。この手のやつは魔王クラスに強い設定のはず。

「どうでした? コンヤニ」
「はっ…ヤコ草原は特に変化なしでした宰相チルマ殿」

「そうですか…ご苦労様です。他の方面も異常なしとのことでした。魔王様にも報告しておくように」
「ははっ!」

 ええっ? ちょっとまってくれ。今魔王言ってたよ?

 …あれ? これゲームの基本から大きくはずれているんじゃね?

 普通、人が住んでる何処かの町とか村から始まって、スライムとかゴブリンとかザコモンスターを倒して、経験を積んでいって、色々苦労して中ボス倒していって、最強装備に最強の仲間達を揃えて最後に魔王って段取りがあるだろ? 

 うん、ヒロシはそうしてたな…。

 そんな俺の思惑とは裏腹に魔王の元にたどり着く。

   ♢

魔王の玉座

 魔王は玉座に肘をついて静かに座っていた。

 魔王の特徴としては頭に立派な三本角、額に黄色い大きな宝石トルマリン? 髪は金髪で、全身の服は派手で宝石が散りばめられた赤のフロックコートに黒のズボンを着ていた。見た目は中世ヨーロッパの王族って感じだな。

 王座は髑髏を模した黒水晶で作られ、闇の王の禍々しさや威圧感を増幅させていた。

「魔王ルベード様っ、コンヤニ帰還しましたっ!」

 両手を組み膝を付き、力強い挨拶をするコンヤニ。魔王に委縮しているためか額に汗をかいている。俺にも物凄い緊張感が伝わってくる。

 …どうでもいいがコンヤニ…俺を肩に乗せているの忘れていないか? 俺ここに来たらイカンと思うのだがどうだろう? 実際コンヤニの周りの部下は誰もついて来ていないしな。

「…話せ…」

ビリビリッ…
 言葉を話すだけで、まるで雷が落ちたような振動が伝わってくる。

「…ヤコ草原は特に変化なしでしたっ」
「そうかご苦労…下がれ」

 その時、俺と魔王の目があった。

「…コンヤニ肩の物は何だ?」
「あっ!? 実はヤコ草原で拾った小動物でして…」

 やはり、コンヤニは俺を肩に乗せていたのを忘れていたようだ。

ピクッ…
 魔王の目が急に鋭くなる。

 えっ? 何? なんか魔王の力で感づいちゃった?

「…コンヤニそいつを置いて下がれ」
「えっっ? あ、しかしっ…」

「…下がれ次はない」
「は、はっ!」

 コンヤニは一礼すると急いで魔王の間から出ていった。

 魔王と俺は二人きりになる。ま、まずいこれは無理ゲーだ。

 その時、魔王の額の宝石が怪しく光る。

 そして、驚いたことに徐々に目の形に変わっていき、魔王の第三の目となったそれは、ギョロッとした瞳でこちらを見つめている…。

 こ、こわっ…。
 俺は思わず身震いしてしまった。

「…お前、何処からきた? 話せ…」

 あ、これ魔王がなんかわかってて試される奴だ…。
 俺の第六感が危険信号を発している。

 ヒロシの元に帰らなきゃならないのに、どうする俺? コマンド?


第4話 コタロウの武器

「あの…俺、声小さいので魔王様の手に乗せて頂いてもいいですか?」

 俺が喋れることに魔王は驚いた様子はない。

「…いいだろう、近くに寄れ」

 近くによると俺は手に乗せてもらえた。
 何でもお見通しって感じだ。

「…話せ、名前もだ」

 コンヤニの立場を考えると正直に話した方が良さそうだ。

「あ、はい。俺は異世界から来ました。コタロウといいます」
「そうか…コタロウは勇者か?」
「ではありません、犬ですね」

 魔王の額の宝石が怪しく光り、こちらを見つめる。

「…嘘は言ってないようだな。しかし、いぬ?とは?」
「異世界のペットです」
「成程それでコンヤニのやつ…」

 魔王は納得しているようだ。

「ところで犬であるお前が何ができるか見せてもらえるか?」
「わかりました」

 俺はそう言うと、魔王の間入り口のドアの方向を向き、キャンキャンと吠えた。

「?」

 魔王はそれを見て不思議そうに首を捻る。

「俺は近くに誰かいた場合分かりますので、護衛ができます。門の外にコンヤニ様がいますよ?」
「ほう? コンヤニ…俺の言うことを聞けぬのか?」
「す、すいませんでしたー!」

 ドアの外でひっそりと待機していたコンヤニは、そう言うと驚いて去っていった。
 俺のこと心配して待機してくれていたんだろう。いい奴だなコンヤニ…許せ。

「成程…護衛としてコタロウは使えるな。他は?」
「…癒しです」
「? なんだそれは」
「言葉では説明できないものです…俺がこれからすることを許してくれますか?」

 魔王の額の宝石が怪しく光り、こちらを見つめる。

「…フムいいだろう」

 俺はおもむろに、魔王の手をペロペロと舐め始めた。
 魔王はこの時、黙っていたが…何故か体が小刻みに震えている?

 ! 俺はチラリと魔王の顔色を確認する。
 険しかった口元が緩んで、険が取れている!

 ここだ!

ベチョ! 
 俺は次に魔王の顔を嘗め回した。

「こ、こらっくすぐったいやめっ…くっどわっはっはっー!」

 よし、魔王が押し殺していた自身の情を取り戻せた!
 と、何か揺れてるんだけど…? 

ゴゴゴッ…

 うわわっ! 結構激しい、震度三くらいあるんじゃないか?
 …よく見ると震源は魔王であった。

 よ、喜んでいいんだよね?

バタンッ!
 その時扉が開く音が聞こえた。

「ま、魔王様っ、無事ですカッ?」

バコオッ!
バタンッ!

…メキィ!

 心配して駆けつけたコンヤニに魔王の両手から放たれた衝撃破が炸裂し、再び部屋から強制退場する。

「二度はないと言ったな? 俺は愚か者は嫌いなんだ」

 ま、魔王強い…。コンヤニが一撃だよ。

 それから数時間後。
 
「はっはっは、お前面白いな! 気に入った」

 すっかり上機嫌の魔王。良かった色々気に入ってもらえたようだ。

 俺はその成果が嬉しくて尻尾をぶんぶんと振りまくった。
 魔王は大きな手で俺を撫でまわす。

「それは兎も角、お前ここに何しにきたのだ言ってみろ?」
「実は…」

 俺は少し迷ったが全て正直に今まであったことを魔王に話した。

「そうか、お前の目的は異世界のヒロシの元に帰ることなのか」
「はい、正直魔王さん達とは分かり合えることが分かったし、もう争う気はないので…正直困っているんですよね」

 少し間を置いて魔王はこう返してきた。

「…ふむ、できるかもしれんぞ、実はな…」
「ええっ?」

 魔王の意外な回答に俺は驚いた。


第5話 再会

数日後 現実世界のヒロシの家の近くの公園

「ほう、ここがコタロウの住む世界か」
「そうです…ああー久しぶりだな、ヒロシどうしてるかな?」

 俺は懐かしさを感じ、嬉しくて公園周辺を走り回る。

 そう、なんと俺達は一時的に、現実世界に帰還することができたのである。
 魔王の額の宝石『真理の瞳』を使って。

 このマジックアイテムは対象の心を見透かすチート能力のほかに、対象のいた異世界の扉を開くことが出来ると言う。前女神が話していた異世界ゲートとはこれを指していたのだ。

 ただしこれ一個では扉として不完全であり、条件付きの一方通行の能力になっている。

 要するに『真理の瞳』を使って、元の世界には帰ることができない代償があるという。更に代償交換という条件があるわけで、とこれは後から説明した方がいいだろう。

 とりあえず、ヒロシを探そう。

 っといた!

 公園の滑り台の下で体育座りをして、膝を抱えうずくまっている。なんだか落ち込んでいる感じだ。

 俺は迷うことなく、ヒロシの元にダッシュした。

「ワンっ!」 

 俺はヒロシの顔目掛けてジャンプした。

「わっ、なんだこの犬…?」

 ヒロシは俺をよく見る。

 俺はヒロシの顔をなめまくると表情が笑顔に変わる!

「お前っコタロウ? コタロウだよな?」

 俺はそうだと言わんばかりに、地面を激しく転がりまくる。

「ああっ! このわけのわからない動きコタロウだ。お前がいなくて寂しかったんだぞ…」

 ヒロシは俺をぎゅっと抱きしめてボロボロと泣き出した。
 ヒロシの俺に対する愛情が伝わってくる。

クーン…
 俺も嬉しくてつられて泣いてしまった…。

 …と、いけない時間は限られているんだっけ。

「ごめんよ、ヒロシ」
「えっお前喋って?」

 目を丸くして驚くヒロシ。

「ごめん、時間がないんだ。合わせたい人がいるから俺について来てくれるか?」
「あっうん」

 俺はヒロシと共に近くで待機していた人間に変身した魔王とコンヤニの元に合流した。

「えっと誰? この兄ちゃん達?」
「信じられないだろうけど異世界の魔王達」

「魔王ルベードだ」
「配下のコンヤニだ」

 それを聞いて目をパチパチするヒロシ。

 まあ、そりゃ当然の反応。

「うーん、コタロウが生きていて喋ってるからそうなのかなーとは思うけど、なんか現実味がないんだよね…」
「まあ、無理はないな。じゃこいつでどうだ?」

 魔王は指先パチンと鳴らす。

「えっ?」

 驚くヒロシ。
 そう、俺達四人は一瞬で公園の遥か彼方の上空に浮遊していたのだ。

「ヒロシお前、空飛んでみたいっていってただろ?」
「あ、ああ。しかしいきなりだと心臓に悪いな…」

「これは『飛空魔法トベルーン』だ。じゃ少し速度を上げながら話すか…怖かったら調整するから言えよ?」

 魔王は意外と紳士だった。

 加速していく背景と空の世界…風が気持ちいい…。

「うおおーすっすげー」

 喜ぶヒロシと俺。

それから数時間後上空にて

「あ、じゃルベードは魔王を辞めてここに来てみたかったんだ?」
「そうだな…ヒロシは俺らの世界ルマニアには興味はあるか?」

「うん勇者になってコタロウと冒険してみたいなあ…でも…」
「親と友達が心配か?」

「うん、いなくなったら悲しむと思って…」
「そうか、じゃこんな話だが…どうだ?」

 魔王はニヤリと笑った。

「! 何それ面白そう」

 驚いたことに魔王は魔王らしく、とんでもない悪魔的な計画を立てたのだ。


第6話 トレード

それから数時間後、ヒロシの家の部屋

「じゃ、行ってくる。ヒロシ行くぞ!」
「慌てるなよコタロウ。ルベードそっちは頼んだからな!」

 俺達はルベードから貰った『何でも入るリュック』に色々持っていく物を詰め込んでいた。

「ああ、お前の変わりはまかせろ。こちらはこちらで探してみるから」

 ルベードは深く頷く。

「コンヤニも俺の代わり頼んだぞ!」

 俺はコンヤニに再三のお願いする。

「やれやれ、魔王様の頼みだ、断れまい。俺がペット代理とは皮肉なもんだ…」

 コンヤニは大きくため息をついている。

 まあね…でも俺のペットの立ち位置視点で見させてもらうと、元々立ち位置はそんなもんじゃね?

「ヒロシ、コタロウをしっかり抱いてろよ」

 ルベードはヒロシの額に『真理の瞳』をはめると何やら小声で呪文を唱えた。

「ありがとうルベード」

 礼を言う俺達。

 ルベードはそんな俺達にフッと優しく笑う。
 俺にはその優しい表情が完全に険がとれた一人の人間として見てとれた。

ブウウンッ…
 鈍い振動音と共に『真理の瞳』が起動し、ヒロシの額の宝石は金色に淡く光り輝きだした。

「帰還の魔法の言葉は唱えてある…後は……」

ウウンッ…
 そして、ルベードの声が遠くなっていく…。

ドサッ…

「いつつ…」

 俺達は意識を取り戻す。

 周りはうっそうと茂る雑草と生温かい緑の香りがする…。
 この見慣れた、ただっ広い感じは…。

「ヒロシ!」
「コタロウ!」

 成功だ!

 俺達は抱き合って喜んだ。

 そう俺達はルマニアのヤコ草原に飛ばされたのだ。

  俺はコンヤニと、ヒロシは魔王と住む世界を変えたのだ。
 これが『真理の瞳』の代償交換の条件のクリアだったのだ。

 俺がヒロシと一緒に生活するため。魔王が異世界である俺達の住んでた世界に移住するためにはこれしかなかったのだ。 

 現実世界にはヒロシに変身した魔王が、俺の代わりにはコンヤニが変身して代理となっている。

 魔王達はあちらで異世界の扉を探してくれる約束をした。

 魔王は癒しに飢えていたんだろう。そしてそれはヒロシの両親と暮らせばそれは満たされていくことだろう。

「もしもし? コタロウさん? なんか私とコンタクトが取れない場所にいませんでした?」

 とか考えていると丁度いいタイミングで女神様からのコンタクト!

「あ、女神様お久しぶりです。丁度良かった、ヒロシ連れてきましたよ?」
「う、うおお? 不思議、頭に直接声が聞こえる? 俺ヒロシですー」

 ヒロシは周辺を見回し、声の主を探そうとしている。
 俺はヒロシに説明してその行動を止める。
 まあね、テレパシーが使える人間はいないからね…。

「ええっ? 何っど、どうやって?」
「実は…」

 俺は女神に手短に説明した。

「ええっ? す、すごい。じ、じゃ魔王を討伐したようなもんじゃないですか…しかも幹部一人もおまけ付きで…勇者まで連れてきて」
「あっ結果そうなるのかな…でも、魔王ルベードは魔王の座をヴァンパイアの宰相チルマに継承していったんですよね。新魔王は旧魔王と違い好戦的だから甘くはないと思いますよ?」

 俺がルベードから聞いた話であるが、実はチルマは何代か前の魔王の一族であった。先祖が昔、派遣争いで敗れ、今の地位になっていただけで魔王としての資質と実力は兼ね揃えているのだ。


第7話 コタロウとヒロシ

「成程…しかし、新魔王チルマも抜けた戦力を埋めるためにすぐには活動できないでしょうね」

 女神はそうは言ったものの問題は深刻であるため、頭を抱え悩んでいる。

「うーん、俺とヒロシ達で何とかしますよ!」
 
 正直困った人、女神かな? を放ってはおけない。

「た、助かるわー。じゃ早速だけどヒロシさん貴方の望むスキルを教えてね?」

 俺は前両足を女神にガッチリと掴まれた。女神はとても嬉しそうだ。

「へへー実はもう決めてるんだ」

 ヒロシは俺と顔を合わせて笑顔で答えた。

「えっ? 何?」
「『魔王から貰った魔法スクロールを覚える能力』」

 ヒロシは例のリュックから魔王から貰ったスクロールを一つ取り出した。

「ええっ? そんなの聞いたことない!」

 目を丸くして驚く女神。

「えっ無理?」

 落ち込むヒロシ。

 コラ! 女神っヒロシがしょげてるだろ! 何とかしろ!
 女神に向かって抗議する俺。

「ワン、ワンっ!」
「あっ…甘噛みはやめっ、少々お待ちを…あ、できますね。いいんだ…」

 女神は上司と上手く交渉出来たようだ。よしよし。

「ヤッター! 『飛行魔法トベルーン』が使える」

 ピョンピョン元気に飛び跳ねるヒロシ。うんうん、気に入ってたからな。

「えいっと…ヒロシさん、これで『魔王から貰った魔法スクロールを覚える能力』が使えます!」

「ありがとうー早速使ってみよ、じゃ女神のお姉さんまたねー」

 ヒロシは俺を両手で抱え『飛行魔法トベルーン』を詠唱し、フワリと空中に浮遊する。

「あっ待って、ヒロシさん装備とかは…」

 慌てて俺達を引き止めようとする女神。

「自分達で手に入れるからそんなのいらないー、魔法が使えるし、武術とかは自分達で鍛えて覚えたいんだ」
「…あ、ハイ」

 女神はヒロシの言葉に唖然としていた。そう、これがヒロシの器のでかさだ。
 女神も驚く程の…。

「じゃ、ヒロシ行こうぜ。あ、俺人間にもなれるから。というか元々こちらでは人間の姿が通常だったんだ」
「おお、じゃ最強のタッグできんじゃん」

 俺とヒロシは顔を合わせ笑いあう。

「うんうん。とりあえず、この『地震ナマズ』って召喚魔法覚えて見て」
「OK覚えた。…あ、山が真っ二つに割れた。これ地形が変わるヤバイ奴だ。これより大人しい魔法を覚えようか」

「じゃ次はな…」

 こんなやり取りをしながら俺達は近くの町に向かって飛んで行った。

 そう俺達の新しい冒険は今ここから始まる。

 ヒロシといれば正直なんだってできそうだし、怖いもんなんてないよ。

 女神様もそうだが、困ったら周りにいる人達や魔族も話せばわかってくれる人達がいる。

 ルベード達がそうだったように。協力すればどんな武器や魔法よりも強力なのはもうわかってるんだ。
 
   ♢

数か月後ヒロシとコタロウがいた現代のヒロシの家

 すっかり現代になじんだルベード達は両親が留守の間、調べものをしていた。

「このパソコンというものは便利よなコンヤニ」
「ですね、素晴らしい機械です」
「コンヤニ…お前、動物園の虎をまた見ているのか…」

 元魔王のルベードはジト目でコンヤニを見る。

「へっへっへ、この毛並みたまりませんなあ…」
「…お前、コタロウ達と交わした目的を忘れるなよ?」

 ルベードはため息をつく。

「勿論ですよー、っとんん?」
「どおした?」
「へっへビンゴですぜ」

 ルベードはコンヤニが使っているパソコンの画面をのぞき込む。

「何々…毛並みのいい白トラの動画?」

 コンヤニは親指を立て笑顔で頷く。

バキィ…
 ルベードの渾身の一撃。裏拳がコンヤニの顔面に炸裂した。

「痛いっ…嘘ですっホントはこれです…」
「…次はないと思え?」

「はいいっとこれです」
「異世界転生計画? 何々…《《御剣プロジェクト》》?」

「何でもこの計画の夫婦博士が姿を消したらしいんです」
「ほお、面白いな…追うぞ」

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