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【読んで学べる神社の話】第2話|お祀りされている神様の、素敵な個性を知りましょう

➤このお話で学べること

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神様が好きな「清浄」ってどういうこと?
神社でお祀りされている神様は


     ★☆★

はじめて「戸或神社」に行ってから、私の日常に不思議な味方ができた。

その味方というのが「神様です」と言ったら、さすがにおこがましい気がするから、「神様からいただいた御守りです」と言っておこうかな。

久しぶりに持つ御守りで、初めて自分で選んだ御守りで、しかも素敵な巫女の紫緒さんとお揃いだという御守り。

私はそれを、通学カバンの取っ手に結び付けることにした。

いろいろ考えたのだけど、やっぱりいつでも目につくところにつけておくと、より心強い気がする。

もちろん、別に私自身の能力だとかが、御守りを持ったことで急にパワーアップしたわけじゃない。

でも、私のダメダメなところも、だからこそジタバタがんばっているところも、きっと全部神様が見てくれている。そう思いながら、一生懸命生きていくしかないよね……!

不思議なことに、私は最近なにか嫌なことやヘコむことがあるたびに、御守りを見てはそんなことを思って自分を奮い立たせるようになりつつあった。

神様はきっと、厳しいけどやさしい方だと思う。だから、こんな私のことも、決して見捨てずに応援してくれるような気がした。


     ★☆★

部活がなくて早く帰れる日に、ひとりのときはフラッと戸或神社に立ち寄ることが増えていて、今日もそんな放課後だった。

巫女の紫緒さんは、大体いつも、社務所の窓の向こうか境内のどこかにいて、私を見つけるとパッと笑顔を咲かせてくれる。

「紬ちゃん」

名前を覚えてもらえたのが、本当にうれしい。初対面のとき、厚かましく名乗っておいてよかった。

そんなことを思いながら、ほうきを手に参道を掃き掃除中だったらしい、紫緒さんの方へ駆け寄る。

「こんにちは!」

「ようこそお詣りです。学校帰り? 来てくれてうれしい」

兄妹のいない私にとって「憧れのお姉さん」みたいな紫緒さんは、話をしているだけでもなんとなく、くすぐったくて幸せな気持ちになれる。

「うん、今日は終わるの早かったから。紫緒さんはお掃除ですか?」

「そうなの。神社はほとんど屋外でしょう? 朝に掃き掃除をしておいても、気がつくと落ち葉だとか飛ばされてきたゴミなんかで、汚れてしまうのよね」

「うへー、大変!」

汚れるのが分かってるのに、何度も何度もきれいにするなんて、本当に頭が下がる。私なら「朝も同じ場所やったのに……」って、すぐにげんなりしちゃいそう。

それだというのに、紫緒さんはちっとも嫌そうな顔をしていないし、なんならいつだってニコニコしながらお掃除しているんだよね。

人間できてるなぁ……と、感心してしまう。

すると、そんな私の心の声を読み取ったかのように、紫緒さんはニンマリいたずらっぽく笑った。

「紬ちゃんに、いいことを教えてあげましょう」と言うと、そっと私に耳打ちする。

「神様はね、清浄が好きなのよ」

せいじょう、正常……? 囁かれた言葉は耳慣れなくて、一瞬、何のことかわからなかった。

「清らかで、穢れがないってこと」

「あ、なるほど。清浄、ですね」

私の中でも、やっと漢字が当てはまって、腑に落ちた。

「手水舎で、手や口を洗うでしょう? あれも“禊(みそぎ)”って言って、御神前に立つ前に心と体を清める意味があるの。だから、神様に喜んでほしかったり気に入っていただくには、自分自身も、身の周りも清らかにしておくのが一番だってこと」

そうか……あれも、神様にお会いする前に失礼の無いように、っていうことだったんだ。

看板を凝視しなくても、だんだん作法を覚えつつあった「手水」のことを思い出して、妙に納得する。

「この神社で神様方に心地よく過ごしていただくには、私たちが一生懸命、境内をきれいにしておかないとね! あっ、もちろん参拝者の方にとっても、気持ちのいい場所じゃないとならないし!」

うんうん、と頷きながら饒舌に話す紫緒さん。神様のことが、本当に大好きなんだなぁ……と、その姿を見ながらしみじみ。

普段、私の周りにはいないくらい、ものすごく自然に清らかなことを言ってくる人だから、時々こちらがびっくりしてしまうけど。だからこそ紫緒さんは、根っからの「巫女」なんだなぁ、と思う。

「とりあえず、紫緒さんは心が清浄ですよね」

「あはは、本当? だとしたら、巫女として合格かな?」

「うん、合格合格。100点満点!」

よくよく考えてみれば、なんで私が偉そうに「合格認定」しているのか、サッパリわからないけど……。

こんな風に、紫緒さんはちょっとお茶目で、おもしろいところもある巫女さんだった。


     ★☆★

本殿にお詣りを済ませて参道を引き返しつつ、そういえば……と、あることを思い出して振り返る。

そう、大きな社殿の右奥に、小さな祠のようなお宮があるのだ。

「紫緒さん紫緒さん、あの……あそこにある、小さなお社みたいなのは何ですか?」

私の見つめる視線の先を追いかけて、紫緒さんは「あぁ!」と頷き、教えてくれる。

「あれは、摂社(せっしゃ)末社(まっしゃ)と言って、本殿にお祀りされている神様とは別の神様がいらっしゃるお社なのよ」

「えっ、べ、別の神様⁉」

私の心に、ちょっとした衝撃が走った。

神様って、そうか……。神様ってひとりじゃなくて、たくさんいるんだ?

確かに「八百万(やおよろず)の神様」って、なんか聞いたことがある気がする。……えっ、待って。じゃあ日本には、神様が800万もいるっていうことなの?

紫緒さんのひとことから、これまで深く考えてこなかった場所に向かって一気に思考が走り出し、勝手に混乱してきた。

そんな心中を察してか否か、紫緒さんののんびりした声。

「日本では、あらゆるものに神様が宿るっていう考え方が古くからあって、古事記とか日本書紀とか、そういう神話の中にもたくさんの神様が出てくるのよ。海の神様とか、山の神様とか、お酒の神様とか……」

「それが八百万の神様、っていうことですか?」

「そうそう! あれは、ぴったり800万柱(はしら)の神様がいるっていうことじゃなくて、もう数えきれないくらいの神様が、いろーんなところに宿っている、っていうこと。その中でも、神話に登場するような有名な神様は、多くの神社でお祀りされているんだけど、そもそもは元となる大きな神社からどんどん枝分かれして、全国各地に広がっていったの」

そっか。全国のあちこちに点在する神社は、どの神様がお祀りされているかっていうのが、それぞれにあるっていうことなのか……。

だんだん、意味がわかってきたような気がする。

「神社によって、“厄除けの神社”とか“子育ての神社”とか“縁結びの神社”とかいう呼び名が言われるのは、お祀りされている神様の“御神徳”っていう得意分野の御力に由来していることが多いかな」

「じゃあ……この戸或神社の御本殿には、どんな神様がお祀りされているんですか……?」

我ながら今更なことを、恐る恐る聞いてみる。

「この神社は、“導きの神様”と言われる“猿田彦大神(さるたひこのおおかみ)様”が主祭神。つまり、御本殿にお祀りされているっていうことね。猿田彦様は、縁結びとか交通安全の神様としても、親しまれてるかな」

「導き……!」

す、すごい。確かに私も、この神社にはなんだか「導かれた」ような気がする!

心の中で、ちょっと興奮してしまう。

「その他にも、“合祀(ごうし)”と言って一緒に別の神様がお祀りされていたり、さっき紬ちゃんが気づいてくれたお社のように、“摂社”や“末社”という小さなお社にお祀りされていたりする神様もいて。ひとつの神社でも、何柱もの神様がいらっしゃることが多いのよ」

サラサラっと流ちょうに説明してくれる紫緒さんを見て、だんだん情けない気持ちになる。

そこまで年は離れていないはずだし、神社に行くのも初めてじゃないのに、私ばかりこんなに何も知らなくて恥ずかしくなってきた……。

これまで、なんとなく神社にお詣りしていた頃は、そんなこと深く考えていなかった気がする。

「昔からこんなに近くにあったのに……私、神社のことも神様のことも、よくわかってなかったんだなぁ」

言いながら肩を落とした私に、紫緒さんはやさしく笑ってくれる。

「ものすごく奥が深い世界だもの。これから少しずつでも知っていくと、きっと人生がもっとおもしろくなるわよ」

ポンポン、と肩を叩かれつつ落とした目線の先に、握ったカバンから揺れる御守りが見えた。

そっか、そうだよね。これからいろいろ、知っていけばいいんだよね……!

うん、と頷いた私に、すかさず紫緒さんが首を傾け、訊ねてくる。

「由緒書(ゆいしょがき)っていう、神社や神様の説明が書いてある紙があるけれど、よかったらうちの神社の由緒書、紬ちゃんも読んでみる……?」

「読みます!」

ついつい、やけに気合いの入った声が出る。だって、せっかく御守りまで持っているのに、その神様のことを知らないなんて、ちょっと失礼な気がするもんね!

「ふふ、取ってくるね~♪」

私の返事を聞くなり、紫緒さんは楽しそうに、足取り軽く社務所へ姿を消していったのだった。


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➤紫緒さんのおさらい

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このコーナーでは、物語の中で登場した神社にまつわる知識を、私と一緒におさらいしていきましょう!


★Point 3【神様が好む「清浄」とは】

神道の世界で、最も大切にされていることのひとつは「清浄」です。

その理由は、物語の中でもお話しした通り、神様が何よりも清浄を好んでおられるから。

清浄というのは、まさに「清らかで、穢れがない」という意味なのですけれど、「穢れた場所」にはそもそも、神様が居られないのです。

とある神職の方が、「神職の仕事は掃除に始まり掃除に終わる、というくらい清浄のこころが大切なんです」と、私に教えてくれたことがありましたっけ……。

清々しく心地よいと感じる神社は、この「清浄のこころ」をとても大切にしていますし、境内が丁寧に清められていることで神様も喜んでおられるに違いない、と実感するんです。

そして、私も巫女として境内をお掃除するときは、それを通じて自分の心まで磨いているような気持ちになるんですよ。

私たちは人間ですから、生きていればいろんな困難や苦難があり、時には気持ちが荒んでしまうこともありますよね。

でも、そういう心の穢れだって、ちゃんと清めることができるから……。

そのきっかけの場所に、神社がなれたとしたら、とってもうれしいなと思うわけです!

たとえ汚れてしまっても、またそれを磨いてきれいに……という努力を繰り返す人の心を、必ず神様は応援してくださいますからね。


★Point 4【お祀りされている「御祭神」とは】

それぞれの神社には「御祭神」と言って、お祀りされている神様がいらっしゃいます。

日本に古くから伝わる神道という宗教では、「八百万の神々」という言葉があるように、「この世のあらゆるものに神様が宿っている、だからどんなものもないがしろにしてはいけない」という教えが残っています。

そして他にも、その神社や主祭神の神様にゆかりのある、複数の神様を一緒にお祀りしている神社が多いです。

一番中心となってお祀りしている神様を「主祭神」と言い、それ以外の神様も、御本殿に一緒に「合祀」をしたり、「摂末社(※摂社・末社の総称)」として別のお社にお祀りしているという形があったりするのですね。

もし、あなたにとって身近な神社がある場合は、ぜひともその神社の「由緒書」を読んでいただき、どんな神様がいらっしゃるのかを知ってみてください。

どの神社にも、たいてい由緒書の紙は置いてありますし、万が一ない場合でも、境内に看板できちんと歴史なども含めた説明があることがほとんどです。

最近であれば、あらかじめホームページで調べることもできちゃいますね。

神様から見ても、「誰でもいいから、神様助けて!」と言われるより、自分のことをよく知ってくれている人が、自分を慕い、頼ってお詣りしてくれるという方が、お喜びになりますからね!


それでは皆様も、素敵な神様とのひとときを……。



※この物語はフィクションです。
実在の神社様や人物とは一切関係ありません。


➤Story Link『とある神社ものがたり』

予 告|紺野うみの「まえがき」と「ごあいさつ」
第1話|もし心がつらい日は、癒しの杜へ行きましょう
第2話|お祀りされている神様の、素敵な個性を知りましょう
第3話|悩んだときこそおみくじで、そっと神様に訊きましょう
第4話|comming soon...

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