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短編映画シナリオ『寝言』

◯台所(夜)
ハンバーグが焼かれている。その具合をみている詩織(28)。

◯リビング(夜)
ソファに座った俊輔(26)がスマホを操作している。ライングループで友だちに美人の彼女の家にいることを自慢、マウントするラインをしている。
俊輔は視線を上げ、整頓された部屋を一瞥し、
俊輔「(詩織に呼びかける)きれいにしてるんだね」
詩織の声「え?」

◯台所(夜)
詩織がハンバーグを裏返す。
俊輔の声「きれいにしてるなあって」
詩織「ああ、掃除したから」

◯リビング〜寝室(夜)
俊輔、リビングの本棚などを見終えると寝室に行き、ベッドを見つめる。

◯台所(夜)
詩織「あんま見ないでよ」
俊輔の声「え?」
詩織「テレビでも見ててよ」
詩織、フライパンを閉じていた蓋をとる。蒸気があがり肉汁がはねる。
俊輔が後ろからのぞき
俊輔「うまそう〜」
詩織「ハンバーグが好きって子どもみたいだよね」
俊輔「ハンバーグはみんな好きでしょ」
詩織「まあ私も好きだけど」
俊輔「ほら」
詩織「シュンくん、ごはんよそってくれる?」
俊輔「は〜い」
俊輔、炊飯器からご飯をよそい、リビングにもってく。
詩織、付け合せの野菜などがのった皿にハンバーグをのせる。
俊輔「完成〜」
俊輔「きれいだね、持ってく」
俊輔、後ろから詩織に抱きつき、詩織の手に手を重ねる。
二人、目を合わせる。
詩織「冷めちゃうから」
俊輔「そうだね、もったいない」
俊輔は皿を運ぼうとすると、詩織が俊輔に後ろから抱きつく。
詩織「温めれば、いっか」 

◯寝室・ベッド(夜)
二人が裸で寝転がっている。
詩織「幸せだなあ」
俊輔「これから大事にするね」
詩織「わたしも。なにか不満があったら言ってね。直すから」
俊輔「うん、俺も。なんでも話し合おうね」
詩織「うん」
二人、見つめ合う。

◯台所(早朝)
シンクに食べ終わった皿が水につけてある。
トイレの水が流れる音がしてーー

◯トイレ前〜寝室(早朝)  
俊輔が出てきて寝室に戻ると
詩織「……シュンくん」
俊輔「ん、なに?(詩織の顔をのぞきこむ)」
詩織「(目をつぶったまま)シュンくん」
俊輔「え、寝言? かわいいな」
詩織「……シュンくん」
俊輔「なーに」
詩織「……別れたいの」
俊輔「え?」
詩織「……別れたいの」
俊輔「え、なに、起きてるの?」
詩織「(眠そうに目を開ける)どうしたの?」
俊輔「いや、今、なんか言った?」
詩織「どうしたのって」
俊輔「その前」
詩織「え、なんも言ってないよ」
俊輔「じゃあ、やっぱ寝言なのか」
詩織「え、恥ずかしい。寝言言ってたの」
俊輔「うん……」
詩織「なんて言ってた?」
俊輔「それはちょっと」
詩織「なんで、教えてよ」
俊輔「シュンくんって」
詩織「なんだもう。幸せだなあ」
俊輔「うん」
詩織「寝る?」
俊輔「うん」
二人、布団に入る。
俊輔は落ち着かぬ様子。
しばらくすると
詩織「……シュンくん」
俊輔「また?」
詩織「……別れたいの」
俊輔「……」
詩織「……別れたいの」
俊輔「もうなに?」
詩織「もう、したくない」
俊輔「……え?」
詩織「……へたくそ」
俊輔は耐えかねたように勢いよく布団を出る。
詩織「(起きて)どうしたの?」
俊輔「……」
詩織「ごめん、また寝言言った?」
俊輔「ほんとに寝言?」
詩織「なんも言った覚えないよ」
俊輔「……」
詩織「なんか嫌なこと言ったの、わたし」
俊輔「いや」
詩織「教えて」
俊輔「言いたくない」
詩織「なんでも話し合おうって言ったよね」
俊輔「そうだけど」
詩織「悪いとこあったら直したいし、ね」
俊輔「……だから、別れたいって」
詩織「え?」
俊輔「別れたいって寝言で言ってて」
詩織「うそ」
俊輔「ショックだよ」
詩織「全然思ってないのに」
俊輔「そうだと思いたいけど」
俊輔「でも寝言だし、シュンくんに言ってるんじゃないじゃない」
俊輔「いや、最初にシュンくんって言ったあとだから」
詩織、起きて俊輔に抱きつき
詩織「別れたくないよ」
俊輔「うん」
詩織「傷つけてごめんね。大好きだからね」
俊輔「うん」
詩織「寝る?」
俊輔「うん……」
二人、くっつきながら布団に入る。
詩織「シュンくん」
俊輔「なに(冷たく)」
詩織「こっち向いてよ、シュンくん」
俊輔「なに(向き合う)」
詩織「かわいい」
俊輔「かわいくないよ」
詩織「かわいいよ。幸せだなあ(くっつく)」
俊輔「うん、それ言うんだけどなあ」
しばしの沈黙のあと、詩織の寝息がする。
俊輔「早いなあ……(落ち着かない)」
俊輔、ゆっくり詩織から離れベッドを抜け出し、かけぶとんをもって寝室を出ようとすると
詩織「別れたくない」
俊輔「え?」
詩織「別れたくないよ」
俊輔「え、起きてる?(反応ない)……え、 寝言? ほんとに」
詩織「……すっごく良かった」
俊輔「え」
詩織「もう1回、しよ」
俊輔「え(うれしそうに女に近づく)」
詩織「別れたくないよ、真人」
俊輔、かけぶとんを落とす。
詩織「(起きて)もしかして」
俊輔「もう無理、帰る」
詩織「え、え、なんで」
俊輔「真人? そいつと別れたくなかったんでしょ」
詩織「え」
俊輔「寝言だろうが本音でしょ」
詩織「そんなことないよ、絶対シュンくんの味方だし」
俊輔「どこが? 真人のほうがうまかったんでしょ」
詩織「なにが?」
俊輔「それは……」
詩織「お願い、言って(手をにぎり)ちゃんと話し合おう」
俊輔「無理だよ」
詩織「前の彼とは終わったし、ね。寝言で仲悪くなるなんておかしいよ」
俊輔「……だからその、そっちの男のほうがっていうか、あんまよくなかったんだって、セックスが」
詩織「……」
俊輔「まあ寝言だからあれなんだけどさ」
詩織「それはでも、言われてみるとうん……そうかも」
俊輔「え」
詩織「……(悟ったように)わたし、別れたいのかも」
すずめの鳴き声が聞こえる。
俊輔はショックを受けたあと、いたたまれなくなり出ていく。
詩織は思い出したように少し笑う。ブラックアウト。
詩織の声「へたくそ」                    
                                (了)  

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