目の前が真っ暗になった。ヒースロー空港行きの直行便。ブリティッシュエアライン。安いエコノミークラスの席ゆえに、身体はバキバキ。到着まで5時間。時差ボケもあるし、できれば寝たかった。 けど、寝れない。 いい映画かどうかは、見終わった後にわかる。 いつもは煩くて仕方ない脳内が、どこか他人ごとに感じられて、なんでもできるような無敵さが体にみなぎる。 まるで主人公を纏っているかのよう。 決してハイじゃない。冷静なのに熱い。 「勝手にふるえてろ」は、そんな脳内を全く別次
彼氏ができた。気持ち悪いくらい完璧な彼氏が。2~3週間前の私に伝えたら、小躍りして、軒先をつま先で跳ね回るに違いない。 年上。3歳。年齢差もちょうど良い。完璧。結婚のけの字くらいは見えてくる。けっけっけ。ニタニタ笑いが止まらない。LINEの登録名も下の名前に変えた。 淳哉、愛してる。 出会いはシンプルに職場だった。同じ部署の隣の島。正確には部署は別だけど、大きな括りで言うと、同じ部署で、その中で私は淳哉の直属の後輩に当たった。わかりやすく職場恋愛だ。 職場の歓
5月の風。なんて、そんな風情、あると思った?さっきから邪魔でしかない。 ヤツは窓のカーテンを動かして、私の頬をしっぺする。手で払って押し込んでも、暖簾に腕押し。そのまにまに、ふと窓の外を見ると、走り幅跳びの授業をしている。体育の中でも楽そうな授業。小さい人影が、小さい距離をちょこんと飛んでいる。 とはいえ、5月は好きだ。少し早めに感じる夏を、私は毎年、少しだけ胸元のボタンを開けて迎え入れる。7月じゃ遅い。始まったと思った時には終わっている。だから、私は、誰よりも先に迎え