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ぼっとぼっと

 彼氏ができた。気持ち悪いくらい完璧な彼氏が。2~3週間前の私に伝えたら、小躍りして、軒先をつま先で跳ね回るに違いない。
 年上。3歳。年齢差もちょうど良い。完璧。結婚のけの字くらいは見えてくる。けっけっけ。ニタニタ笑いが止まらない。LINEの登録名も下の名前に変えた。

 淳哉、愛してる。

 出会いはシンプルに職場だった。同じ部署の隣の島。正確には部署は別だけど、大きな括りで言うと、同じ部署で、その中で私は淳哉の直属の後輩に当たった。わかりやすく職場恋愛だ。

 職場の歓送迎会や、その他の類の幹事は、必然的に私たちになったし、一緒に過ごす時間は多かった。こういう仕組みも悪くない。無理やり同年代を幹事にするのにも、ある一定の意味があるんじゃないかって、昭和を擁護したくなった。

 仕事なんて、途中からどうでも良くなった。どちらかといえば、淳哉と同じ空間にいれることが重要で、そのために、出社の回数も増えた。周りはリモートワークが主だったから、必然的に上司たちからの評価も高まった。なぜか、仕事もできるようになってきた。もしかしたら、どうでも良くなったから、却って良かったのかもしれない。

 そんなこんなで、気づいたら同棲もしていた。
 あーシンプル。お母さんありがとう。
 特に言いたいこともないです、私は。あ、お父さんもありがとう。

 このまま結婚もできそう。
 なんか、周囲の同期や大学の友人たちの愚痴もバカらしくなってきた。

「こういうのはね、BOTになればいいんよ」
 淳哉はこともなげにいう。
「気持ちを込めるからいけない」
「真剣に聞いちゃいけないんだ」
「ふーん、不誠実」
「いや、この向き合い方の方が、実は誠実だと思う」
「どうして?」
「相手のことを解ろうなんて、おこがましんだ」
 背中で淳哉の温かみを感じながら、スマホを胸に置く。
「わからないからこそ、欲しいであろう言葉だけをシンプルに返すんだ」
「なるほど」
「そう」
 自然と腹が立たなかった。寧ろ、納得できた。私も大概、適当なのかもしれない。
 ふと思い立った。
「ねえ、婚姻届、書きに行かない?」
「おー、悪くない」
「適当め」
「うん」
「んー。でも、明日でいいかな」
「そっか」
「うん。今日はもう寝ようか」
「そだね」
 電気を消して、ベッドに入る。
 言うべきことなんて、もう、ない。

 私は幸せです。君たちもそうなるといいね。
 ほんとう。

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