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 新年を迎えて実家に帰った。
 両親、妹の家族、私たち夫婦がそろっての新年会。
 ピザ、お刺身、カニなど多くの料理が卓上いっぱいに並ぶ。遅れて到着した私は、みんなの会話を聞きながら、黙々と食べていた。
 料理もだいぶ減った頃、母が「この間、整理していたら出てきたのよ」と封筒を出してきた。広告の裏紙で作られた封筒。表には手紙が書かれていた。祖父からの手紙だった。
 今は亡き祖父からの手紙。祖父が亡くなったのは、もう20年ほど前になる。20年以上前に書かれた手紙。筆ペンだろうか、正直、きれいな字とは言い難く、汚い字しか書けない自分は祖父譲りなのかもとその時思えた。
 私と妹に充てた手紙、声を出して読んでみた。
  「ある本から
 「才能の中で一番は努力する才能である
  努力する才能がなければ人間の屑であると」
  エジソンはフィラメントをつけるのに一万回のテストをしたと言う。キュリー婦人も同様である
 頑張ってくれ」
 自分が子供の頃、夏休みに帰省した祖父母の家。平屋の真ん中あたりに祖父の部屋があった。縁側沿いにある座卓には雑然とペンなど文房具があり、部屋全体が墨汁の匂いがした。
窓から差し込む光が縁側を通して部屋にもあたり、分厚い眼鏡をかけて座卓に向かう祖父の姿を、部屋の前を通る度に眺めていた。
この手紙はあの部屋で書かれた。そしてかつてこの手紙を読んだことも、うっすらと思いだした。
祖父はもういないが、祖父の思いはこうして手紙を通じて残っている。すっかりと忘れていた祖父からの手紙だが、母のお陰で、思い出すことができた。
もし祖父が生きていたとしても同じことを言うだろう。
「頑張れ」と。
 頑張ろうと思える、新年の始まりだった。

はじめまして。写真と映像制作をしているフリーランスの小西と申します。文章作品にも力を入れています。作品はご自由にお読みいただけますが、応援したいというお志も大歓迎です。