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非営利団体が生まれた背景・広がり

 NPOなどの非営利団体が生まれた背景にはどんなことがあるのだろうか。
引き続き、『経営学を楽しく学ぶ』を読んでいく。

社会起業家
 イギリスのサッチャー政権の1980年代に、”ゆりかごから墓場まで”の福祉国家観から「小さな政府」観への転換が主張されている。このなかで実施されたのが、行政が担当してきた事業の民営化・民間化であり、もうひとつが規制緩和である。この流れのなかから社会起業家が誕生してきた。他方、アメリカにおいては利益重視の株主主権の考え方、マネー・メーキング(金儲け)中心の金融資本主義に対する批判・異議として「社会的責任」や「社会貢献」が主張されてきた。このようななかで、成功した企業経営者やコンサルタントたちの一部が社会起業家に転身したり、社会責任投資を行うケースがみられてきた。

齊藤毅憲、『経営学を楽しく学ぶ』(45頁)、中央経済社、2020

社会起業家育成の活況化
 社会起業家を育成しようという動きがトレンドになっている。社会起業家の父といわれるビル・ドレイトン(Bill Drayton)は、1982年にアショカ財団をつくり、社会起業家を育成する活動を世界的に展開してきた。経営コンサルタントを経験してから、この財団を設立しているが、財団命名の理由は紀元前に慈悲のある統治によりインドを統一したアショカ王に由来している。
 また、バングラディシュで貧しい女性たちに低利、長期融資を行うグラミン銀行を設立したムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)も世界的に知られた社会起業家である。彼は2006年、ノーベル平和賞を受賞した経済学者であるが、グラミン銀行は多くの人びとに融資するとともに、獲得した利益は災害時の基金としてきた。
 このふたりの活動がきわだって目立っている。そして、確実に社会起業家を育成する動きがわが国でもみられる。たとえば、2002年からスタートしたNEC社会起業塾も、そのひとつである。このプログラムを支えているのが、NPO法人ETIC(エティック)である。代表の宮城治男は大学在学中に学生起業家の全国ネットワークをたちあげており、若手の社会起業家育成のノウハウを蓄積してきた。他方、NECはCSRを重視している企業であり、ETICとコラボレーション(協働)して、この事業を行ってきた。
 NEC社会起業塾は、若者を社会起業家として育てる場として知られている。そして、NECとETICの協働については、横浜市役所が大きな関心をもち、その後、花王も参加するかたちで、社会起業家育成にとり組んでいる。これは、横浜市が社会起業家育成や企業とNPOのコラボレーションを重視している自治体であることを示している。
 また、神奈川県の公益財団法人・起業家支援財団も社会起業家育成のための支援拠点を横浜市に開設している。横浜銀行、アルプス技研、丸全昭和運輸など神奈川県内の16社が出資しているこの財団は、社会起業家育成に貢献してきた。
 このような活動事例は、日本の他の地域においてもみられている。生活者のグッド・ライフに役立ち、それを通じて地域社会の活性化や再生に貢献できる社会起業家の育成は、多くの地域において急務になっている。

齊藤毅憲、『経営学を楽しく学ぶ』(41-42頁)、中央経済社、2020

次に、『みんなのNPO 組織づくり・お金づくり・人づくり』の前書きから、非営利団体の広がりを確認していく。

日本版へのまえがき
 二一世紀の非営利団体

 この二〇世紀の最後の一〇年間に、人道主義的な文明社会にとっての非営利団体の価値が次第に強く認識されるようになってきた。アメリカ経済における、総収入および労働人口に占める非営利団体の割合を見ると、一九九〇年代初期の不況の時期も、最近の経済が急激に拡大している時期も、着実に伸び続けている。ジョン・ホプキンス大学の非営利セクター比較プロジェクトは、世界中のほとんどの先進国だけではなく、工業化を遂げつつある新しい国々の多くでも、「民間の自発的活動の高まり」が見られるとしている。このプロジェクトが調査を行った二二ヵ国では、非営利セクター(「独立」セクターとか「市民社会」セクターと呼ばれることもある)における雇用が、有給雇用全体の平均四・八%を占めているという結論であった。

一九九九年八月二〇日
ロバート・H・ウィルバー博士 

スミス・バックリン・アンド・アソシエイツ著(枝廣淳子訳)、『みんなのNPO 組織づくり・お金づくり・人づくり』(3頁)、海象社、2005



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