すべての活動が画面越しになり、私はついにぬか床を買った
今回も某ボツ原稿をこっちに公開します。今回はちょっと惜しかったみたい。残念。。。
「落ち着いたら遊ぼうね」
つい2か月前までは、みながそんなふうに言っていた。
暖かくなれば元通りの生活が訪れると思っていたのに、たくさんの楽しい催しがなくなり、楽しい場所へのアクセスが不可能になり、生活は大きく変わった。
今までは家には寝に帰るだけだった私の生活も、3月末から完全に在宅勤務になり、起きている間の家と外とで過ごす時間が、完全に逆転してしまった。
友達とはほとんど会えなくなった。友達同士の間でオンライン飲み会が流行りだした。
食料調達と、運動のためのジョギングと、近所に住む恋人と会う目的以外は全く外出をしなくなった。
そんな新しい生活では、一人での仕事も、ミーティングも、すべてがディスプレイ越しだ。
仕事以外の時間、友達としゃべるのも、オンライン英会話も、近所のスーパーでは手に入らない買い物も、日々の日記を書くのも、このライティング・ゼミの課題制作も。
自炊を全くせず、家事も最小限で、外で遊ぶかインターネットで遊ぶばかりだった私は、日常生活のほぼすべて画面を通じて行われるようになった。
「目がしんどい」
1日の終わりにそうぼやく日が多くなってしまった。
在宅勤務を始めたばかりのとき、コーヒーを豆から淹れられるように、コーヒーミルやドリッパー、ペーパーフィルターなどを一通り揃えた。
自分で粉にしたコーヒーをフィルターに入れ、蒸らすためにゆっくりお湯を入れると、カップケーキが膨らんだかのようにふんわりとしだす。そんな光景をじっくり眺めていると、気持ちが落ち着いてきた。コーヒーがなくなった頃に新しく作る時間も、ちょうどいい休憩になった。
コーヒーを淹れる工程はとてもシンプルで繊細。豆の挽き方、お湯の入れ方次第で味が変わる。何度かやっているうちに、自分がおいしいと思えるやり方を見つけられた。
自炊ができない私でも、コーヒーにだけ関して言えば、丁寧なくらしをしている人顔負けのこだわりを見せることができたのだ。
そんな私が次に目をつけたのは「ぬか漬け」。
自炊は全くせず、ちょっと前までは毎食のように家の近くの飲食店に行き、最近はもっぱらコンビニやスーパーのお弁当頼みなのに、である。
もともと健康意識の高かった私は、お弁当と一緒にお漬物をよく買っていた。
食物繊維や乳酸菌を摂取して、腸内環境をよくしようという目的からだ。
「コーヒーを淹れられる私なら、野菜を切って入れるだけのぬか漬けもできるかもしれない」
ふとそんなことを思った。
しかし、ぬか漬けというと、大きな樽いっぱいのぬかを、定期的にかき混ぜなくてはいけないイメージがあった。我が家にはそんなスペースもなければ、そんな手間ひまをかけてもいられない。
「簡単にぬか漬けが作れないものか」と思い、インターネットで検索すると、チャック付き袋に入っていて、冷蔵庫で保管すればよく、毎日かき混ぜる必要もないぬか床が販売されていたのだ。
私は「これだ!」と思い、即注文した。
届いた日に、わくわくしながらカブと大根ときゅうりとを買い込んだ。
ぬか床の袋に書かれていた説明に「カブは皮をむいて」と書いていたけど、ピーラーちょっとむいただけで「こんなのやっていられない」と皮のまま2分の1に切って放り込んだ。
カブの葉は、塩昆布とごま油とでもんで浅漬けにして食べた。
大根は、5cm幅くらいに切ったものを4等分して入れ、きゅうりはそのまま入れた。
基準よりもたくさんの野菜を入れてしまったかもしれない。
うっかりして推奨される漬け時間を半日ほどすぎてしまい、慌ててぬか床から野菜を取り出してみた。
すべての野菜を取り出そうと、ぬか床に手を突っ込んで取り出した。
ぬかを身にまとった野菜たちは、自然食レストランで提供されるメニューのようにも見えた。
さっと洗って食べやすい大きさに切る。一食分だけ残して、残りは保存袋に。
スーパーで買ったお寿司と一緒に食べてみる。
おいしい。
とくに、一つひとつの野菜の浸かり具合が異なって、ふぞろいなおいしさが飽きのこない感じだ。
それから毎食のように漬け物を食べた。
そんな感じで、自炊なんてまったくやりたくもないと思っていた私が、コーヒーを豆から淹れて、ぬか漬けを漬けている。
世界が一変し、日常のほぼすべての活動が画面越しに行われるようになったいま、ディスプレイから目をそらし、自然の繊細さに触れられるシンプルでおいしい作業が、私の身体と心を調えてくれるのだ。
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