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「孫子の兵法」に学ぶスピーチ 空気に色を付け「見える化」する技術(12.火攻篇)

『孫子の兵法』では、火を使って敵を攻撃する方法、「火攻」の方法について、5種類に分類している。
1.【火人】「兵営にいる兵士を焼き討ちする」
2.【火積】「兵糧の倉庫を焼き討ちする」
3.【火緇】「武器や装備品を運んでいるところを焼き討ちする」
4.【火庫】「お金や資材の倉庫を焼き討ちする」
5.【火墜】「橋などの人が往来するところを焼き討ちする」
 さらに、「火攻」と呼応した兵の出し方について、以下の5とおりの変化に従うよう説明している。
1.敵の中に潜り込んだ味方の放った火が、敵の陣中で燃え出した時には、すぐに呼応して攻め込む。
2.火が上がったのにも関わらず、敵が静かな場合にはしばらく待機した上で様子をうかがう。攻撃の可否については適切に判断しなければならない。
3.火を放つのは基本敵の内部であるが、状況が許すのであれば外側に火を掛けるのも有効である。
4.敵の風上から火が上がった時に、風下から攻撃してはいけない。
5.日中風が吹き続けていた時には、夜になると風向きが変わることが多い。火責めはやめた方がいい。
 スピーチやプレゼンテーション、広い意味での私たちの社会生活全般において、「火を掛ける」ことは現実的にありえないが、「火」を「効果的に用いれば非常に有効であるが、制御するのが難しい方法」ととらえれば、様々な方法論に応用することができるであろう。
 現代社会における「炎上」といえば、インターネット上における悪評の広がりがそれに当たるであろう。意図的にライバルに「炎上」を仕掛けることは社会通念上からも、法的な観点からもあってはならないことであるが、「仮に敵側が自分に『炎上』を仕掛けるとすれば、どのような方法を用いるだろうか」とシミュレーションをしてみるのも、危機管理上有効である。
 危機管理のスペシャリストである、佐々淳行氏の一連の著作は非常に参考になる。特に『「危機管理・記者会見」のノウハウ―東日本大震災・政変・スキャンダルをいかに乗り越えるか (文春文庫) 』は「言葉の危機管理」における「最高の兵法書」といえる一冊である。一読をお薦めする。

【解説】
 佐々淳行氏は、元警察官僚として著名な方です。
 記者会見や国会の答弁を数千回、メディアの取材を含めると一万回近いマスコミ対応をされている(出典『「危機管理・記者会見」のノウハウ―東日本大震災・政変・スキャンダルをいかに乗り越えるか (文春文庫) 』)とのことですが、同氏の見識は注目に値します。
 先に紹介した高田明氏がリターンを得ることを目的にした「攻めのスピーチ」の先生であるとすれば、佐々淳行氏は「守りのスピーチ」を運用する上で最良の教師ともいえる人といえるでしょう。
 同氏の具体的なノウハウに関しては、筆者が言葉足らずの論評を行うより、書籍を一読していただきたいと思いますが、ここでは「人の経験に学び、上手く活用する」という観点から、私見を書かせていただきます。
 堀江貴文氏は、『多動力(幻冬舎)』という著書の中で、このように書いています。

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