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直木賞が発表された結果、私は古着屋に怒り、文学の世界に入浴する気持ち


1月19日夕方に発表された直木賞および芥川賞

その前に出そろっていた候補作のなかで自分が読んでいたものは凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』だけだった。

この作品は面白かった。わざわざ買ってよかった。読書習慣のない自分が勇気を出してみてよかった。恋愛がメインテーマの本作品ではラストにしっかり涙出た。


直木賞というのはどういうものかしらないけど、自分にハマった作品だし、アマゾンのレビューもいいし、この本が選ばれてほしい!と思った。


直木賞発表当日に、ニコニコでライブがあったのだけど、(どの候補作が受賞するか?)というテーマで評論家たちが議論している場では予想外にボロカスに叩かれていた。
幼稚。候補作にいれるのすら勉強不足。こんなのが受賞したら直木賞は終わり。そう言われていた。
実際、受賞しなかった。私にはその幼稚さというのは理解できなかったので、残念な気持ちすら湧かなかった。いや正直自分の感情を疑う辛さがあったが、遠い世界のお話なんだと解釈しなおすことにした。


じゃあ一体受賞した作品などんなにすごいの?
自分が次に興味を覚えるのは受賞作品の正解加減だ。
どんな本が批判を黙らせるパワーを持つのか?力は何に宿っているのか。今日は敵地視察の気分で今回の受賞作品の一つ千早茜さんの『しろがねの葉』をツタヤまで行って読んでみた。カフェスペースで1章まで読んだ。昔の設定とかよくわかんないけど調べながらなんとか意味をとる。ちょっと難しいけど面白くなっていくのかなこの後。でも正直そこまでして2章読むほどなのかな・・・。自分には違いはまだ見えないまま、気分転換に都会のおしゃれな洋服屋を散策することにした。半ば、肩透かしを食らったような気分だった。


地図アプリにメモしておいた服屋をめぐっているうちに、自分好みの上着を見つけた。温かい。軽い。シンプルなデザイン。おしゃれなシルエット。
古着なので毛羽立ちが多少あるが、この程度なら問題なさそうだ。
こんなのクローゼットにあったらいいなと考えているうちに店員が詳細を伝えてくる。今アメリカのスケーターに人気のブランドらしいこと。80年代の洋服で、まだまだ状態がいいということ。(40年前の服にしては、だが)
いつもなら軽く聞き流したり、楽しくできる会話が、なぜか煩わしかった。余裕がなくイライラする感じがあった。なぜだろう。
スケーターとかどうでもいいし。そもそもスケーターってなんだし。無職でしょ? いつになく乱暴な言葉が頭に沸く。

華麗なプレゼンを店員の20代後半のお洒落なお兄さんが終えた後、値段のタグをみると、想像していた金額くらいの数字が書いてあった。買うつもりで想像していたのに、実際に数字を見た瞬間、違和感が膨らんでいった。
店員に目をやると、さわやかな笑顔でおだててくれている。あと少し。あと少し私が笑顔になり、声をかければ、やりとりは全て順調に終了できる。


なぜかそこで違和感が爆発した。

私が店に入ってから、服を選び購入し、店を出るまでの、余りにも簡単で、滑らかで、綺麗で、強引で、お洒落で、何の変哲もなくて、不穏を残したりしない、そんな流れでこの金額の金を失うことに怒りが膨張し、服を買う気なんてまるでなくなってしまった。

これはポリコレ的にどうかわからない。
都会の一等地で、お洒落なお店を持って、30年も生きてなさそうな若い人に、しかも自分で作ったとかでもなく40年前の毛羽立つ古着でサクサク金をとられるのが悔しくなった。世の中そんな甘くねぇよとか言いたかった。この金を作るのにどれだけ働かないといけないのか。そんな勘定をするほどだった。



意外だったのは
店を出て思い出したのは直木賞のことだった。金額が一緒とかではないけど、商売には幅がありすりぎる。世界はそれぞれが遠すぎる。分断にもほどがある。


私のいる"ここ"から見たときに、古着屋さんにははっきりと怒りを覚えるに至った。そんなレベルでお金もらえると思うなよと。
だけれど、直木賞受賞作品の『しろがねの葉』には特に怒りも悲しみも、いや、喜びや楽しさ、印象深さ、新鮮さ、諸々心が動くことがなかった。面白いけど、普通、という感じ。

そこには私のレベル感というか、世界に対する"ここ"という立ち位置が見え隠れする。何であれ感情を持つという時点で、ある形での"理解"があるはずだ。理解できなければ、そこに感情は宿らない。

私は直木賞を理解していないし、文学も理解していない。
服屋を出たときに持っていた怒りのエネルギーは、『しろがねの葉』を恋しく思わせた。理解したいと思わせた。自分は理解する側でいたいから置いていかないでと。(笑)

そういうわけで今回の直木賞、および芥川賞を皮切りに、もっと文学を理解しようと思い、帰りに買ってきたという話でした



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