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テレビを楽しめない女の話

若者のテレビ離れが叫ばれて久しい昨今、テレビ業界は度々批判にさらされているようだが、これは全然、そういう話ではない。
元々あまりテレビ好きではなかった私が、その理由に気づいた時の話だ。

実家ではいつもなんとなくテレビがついていて、だから私も、実家暮らしの頃は見るとはなしにテレビを見ていた。
毎週楽しみにしている番組などはなくても、朝のニュース番組は時計代わりだったし、情報番組を見てぼんやりとこんなものが流行っているらしいな、という情報を得ることもあった。つまりテレビを見なくなった私は急速に時代から置いていかれている。最近ちょっとまずいなと思う。

閑話休題。そんな風に育ってきたから、久々に見るテレビも、難なく楽しめるものだと思っていたのだ。でも、全然駄目だった。
久々に自宅で夕食を食べた日。かかっていたのはバラエティ番組で、あの、自腹をかけて食事の値段当てに挑むやつだった。好きでも嫌いでもない、けれど実家にいる頃は、それなりに楽しんで見ていた番組のはずだった。

ただ、現実は「分からない」の波状攻撃だった。
まず出演者が誰なのか全然分からない。当然だが数年の間にメンバーは様変わりしていて、レギュラーと思しきメンバーの中にも見たことない方がちらほらいる。
そのメンバーが喋って、他の人がコメントして、それが何の話をしているのか全然分からない。具体的な過去の話なら当然だろうが、そういうわけでもなかった、はずだ。でもその人のキャラクターを前提にした話……だったのだろうと思う。何も分からないから10割推測だけど多分。

しかもその日はちょうど新メンバー加入の日だった。テレビの中では仮面姿の新メンバーが現れ、正体を当てようと推理ショーが繰り広げられている。のだが、その会話の内容も分からない。
「○○だから△△さんだと思う!」「あーなるほど!!」などと盛り上がる画面を見ながら、いや△△さんって誰……と私は呆然とする。バラエティタレントなのか、女優なのか、はたまた別の何かなのか、それすら分からない。分からないが分からないを呼び分からないを生み出し、何を言っているか半分も分からないまま番組が進み、何も分からないまま新メンバーが仮面を取る。「あ〜〜〜!この人か〜〜〜!」オーバーなリアクションを見ながら私は思う。誰だ……?

そして、そこまで見てようやく私は気がついたのだ。テレビ、中でもバラエティ番組を楽しむためには、相応の能力が必要なのだ、と。
少なくとも有名人の顔と名前を覚え、「お決まりのやりとり」に馴染む必要がある。
人を覚え人に興味を持ち、暗黙の了解を汲み取り……つまりこれって、コミュニケーションと同じような能力なのだと思う。
新年度にクラス替えがあるように人気のタレントは常に入れ替わり、あるあるネタやお決まりのパターンのトレンドも移り変わる。ただ理解すすのではなく、日常的にある程度興味を持ってテレビを見ていなければついて行けないのだ。不登校児が突然クラスの輪に入って楽しもうったってそうはいかないように。

だからずっとテレビを楽しみきれなかったのかー!ここまで考えてみて初めて腑に落ちた。私は人の顔と名前を一致させるのが苦手で、暗黙の了解というものに途方もなく疎い。そりゃあ楽しみきれないはずである。

私は、ずっとテレビが好きじゃなかった。クラスの輪に入れない子供みたいに、きっとずっと疎外感を感じていたんだろうと、今は思う。
どんな娯楽にも向き不向きがあるのだなぁ、と思い知って、私は今日も本を取り出す。一人だけの世界に入れる本というものが、私にはやっぱりお似合いなのだろう。

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