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放課後、魔法少女V

第8話

「夕焼け」


 夏、やって来ました!学期末テストはちょっと嫌だけど、明日からは夏しかできない授業、水泳が始まるんだ。実は私水泳が大の得意だから、活躍しちゃうぞ!!


 「だったのになぁ・・・・」
外ではセミが元気よく鳴いている。ジジジジっと羽を震わせて飛び立っていく。ほんと、羨ましいなぁ・・・。ぼんやり部屋から外を見ていると、コンコンと誰かがノックをした。
「マキちゃん、お友達って子が来てるんだけど今いいかしら?」
「はい、大丈夫です」
私が許可を出すと、ドアが開いて看護師さんとうおちゃんが居た。
「うおちゃん、わざわざ来てくれたの?」
「うん。ほづみと先生からマキのこと聞いて。足、大丈夫?」
うおちゃんは、制服にランドセルのままだ。しかも時間は、4時過ぎ。きっとクラブ活動もしないで来てくれたんだろう。
「たくさんお話したいだろうけど、暗くなるまでには帰ってね」
「はい、わざわざ案内ありがとうございました」
「いえいえ、帰る時はまた声かけてね。じゃあ」
看護師さんはそう言うと、部屋から出て行った。
そう、私は今入院している。左足を骨折して。
「で、なんで怪我したの?」
心配もあるのだろうけど、うおちゃんの目は完全に記者の目をしていた。本人の口から聞くまでは、それは本当のことではない。とそう目が語っている。
「えっと・・・、夜コンビニ行って、スイーツ買って、帰り階段で転んで、ポキっとやりました」
これで間違いはないはずだ。そうほづみとウメコさんと打ち合わせしたし。落ち着いて言えたような気がする。
「コンビニはどこへ?」
「ミマファマート。限定スイーツ、スイカパイが食べたかったので」
「ふむふむ。ミマファマート。時間は?」
「21時くらいかな?あの、なんかおまわりさんに質問されてるみたいな感じに、なってきたんだけど」
「あっ、ごめんごめん。ついなんか癖でさ、記者モードになってたかも?」
いや、完全に記者モードだったし後でミマファマート行く気だよね。うん。
「そうそう、これお見舞いに持ってきたんだ。よかったら食べてね」
うおちゃんが持ってきたのは、ミマファマートのスイカパイだった。先に確認に行っていたようだ。うおちゃんの記者魂おそるべし。きっと、朝からいろんなところに取材しに行ったんだろうな。なんとかして話題を逸らさないとバレそうだし、あの話聞いてみようかな。


 「うおちゃん。今日の水泳の授業どうだったの?」
かなり自分の傷を抉るような行為だが、仕方ない。このままうおちゃんに質問され続けたら、きっと真実にたどり着かれてしまうだろう。それだけはいけない。
「うん?特にこれといって。あぁー、でもひとつ残念だったことがあってさ」
「残念なこと?」
そう言うとうおちゃんが、カバンからクラブ活動で使っているカメラを取り出して来た。
「ほら、見てこれ」
そこには、プールのど真ん中で残念そうに水着で立っているウメコさんの姿だった。プールの水は、すべてウメコさんを避けていた。これを人は、「モーゼ現象」と呼ぶ。
「今年もダメだったの。残念」
そう、ウメコさんは毎年この「モーゼ現象」を起こす。魔法でもなんでもなくこれは「自然現象」なのだ。水がウメコさんに泳いでもらうには恐れ多すぎて避けてしまうと、研究者の間では言われている。
「ウメコさん、今年はプール掃除してたのにね」
「ほんと、あの科学クラブの発言はなんだったのよ!ウメコ様の小学校でのプールラストイヤーだったのに、もぉ!」
科学クラブの見解によると、水に慣れてもらえばいいのでは?と言うことで、ウメコさんはプール掃除やプールに水を入れるときも、ずっと立ち会っていたのだ。ウメコさんもやっとプールに入れるかもしれないと、楽しみにしていたのだが無理だったらしい。こんなにウメコさんが残念そうな顔を出すのは、それはそれで珍しいことである。ちなみに、家の水は普通に使えるらしいです。不思議なことって世の中にたくさんあるんですね。
「残念そうなウメコ様を見ているとこっちも、切なくなるわよね。とりあえず化学クラブには、なにかしら謝罪のものを貰わないとこのイライラが納得しないわ」
うーん、化学クラブも発表した責任があるけど、これって科学クラブのせいなのかな?
「中学生になったらウメコさんも泳げるかもしれないし、そこまで怒らなくても」
「マキ、小学生と中学生は違うの。いい?」
「そ、そうだね・・・。まぁでもウメコさんの水着撮れてよかったね」
「まぁね。残念そうな顔ってのがあれだけど。今までは、ファンクラブの壁がすごかったから。今年は最後だからってファンクラブも空気読んだのにね、残念」
「ファンクラブの人も見たかったんだね、ウメコさんが泳ぐところ」
「かもね、私も見たかったわ。残念」



 帰り際。うおちゃんは、少し寂しそうに言った。

「マキ、私本当に帰っていいの?なんだかマキ、」

「大丈夫。今日はありがとう、また学校でね」

「うん。マキ、来年は一緒に泳ごうね」


 うおちゃんが帰った後の病室は、私以外誰もいないせいか。とても広く感じた。結局、ほづみもウメコさんも来なかった。また、憂鬱な気持ちが夜と共にやってきた。

「二人とも、怒ってるのかな」

そう思って、窓を見ると二羽の見たこともない鳥がこちらへ向かってくる。もしかして・・・?

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