ノンストップ人狼ミステリ――森バジル『なんで死体がスタジオに⁉』

ポンコツプロデューサー・幸良涙花が進退をかけて臨む生放送「ゴシップ人狼」。芸能人らがゴシップを暴露しつつ、紛れ込んだ嘘つきを探す人気番組だ。だが、放送開始直前になって幸良は出演者の死体を発見する。その傍には、「放送を止めないこと!」と書かれた台本があった……。

のっけからはちゃめちゃなあらすじで、不安いっぱいで読み始めた。なんなら話が軌道に乗るまでは不安は増え続けた。

だがこれがたいそう面白い。特に大方の構図が明らかになる中盤から一気にエンジンがかかる。

現実離れしていてとっつきにくい話ではあるが、出演者――空振りまくる一発屋芸人、腹黒タレントの叙述のおかげで世界観には入りやすい。
両者は異なるキャラでありつつ、共に芸能界にどっぷり浸かった人物だ。それ故、トークバラエティの現場の空気をよく伝えてくれる。

その裏で奮闘するのが前代未聞のピンチの渦中にいる幸良、ADの次郎丸。出演者(それもメインの!)の死を隠しつつ、番組をやり通さなくてはならない。犯人の書き換えた台本に翻弄されつつ、番組は進行する。

嘘つきの思惑が入り乱れる様はまさに人狼で、そこに細かな手がかりも加わり、リーダビリティマックスの快作である。そこに加えて、構図の種明かしも鮮やかでよかった。

以下、ネタバレ感想↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓



























































































序盤であっさり犯人CO……かと思いきや番組としての人狼だった京極バンビ。この一捻りがギアが上がるのに一役買っていた気がする。こういうことを平気でやってくる作品は、油断せず読みたくなるから面白い。

番組の仕込みとしての犯人当ては超簡素だけど、番宣に手がかりが仕込まれていたっていうのは良い伏線だなって思いました。

それから、仁礼の扱い方も好きだった。バンビを告発して表の探偵として終わるのかと思いきや、推理があらぬ方向に行った途端に予定調和から大きく外れる。ちゃんと犯人の台本の仕込みを看破し、トリのフーダニットは幸良で締める。お洒落なキャスティングだ。

人狼=嘘つき、人狼・裏切り者の微妙な違いから勇崎の本性を暴露する。こういうルールをハックしたやり方はめっちゃ好みだった。欲をいえば、「勇崎はここ数年法を犯していない」なんてあっさりした一文ではなく、具体的なエピソード混じりの方が驚きは増した気がする。

幸良の独白がちゃんと不謹慎なのもツボだった。次郎丸が心のこもっていないつっこみをするも、犯人だったせいで本当に心にもないことを言っていたんだと分かる。妙なところで説得力を出すな。

ひるねちゃんの登場は動機を後出しにしない方針を感じられて好きだった。終わり方は洒落臭い気がしたけど、そこは個人の好みなのでまあ。

ノウイットオールの雰囲気からしてエンタメ志向なことは察していたが、ここまで振り切った作品を書くとは思っていなかった。次作も楽しみにしている。



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