見出し画像

マルキーニョス・ディスタンス/リビジテッド

概要

  • Jリーグでの同僚関係の距離を1年ぶりに再計算してみた.

  • グラフの中心性の指標をいくつか計算してみた.

  • その結果,あのレジェンドがやっぱりJリーグの中心であることが判明した.

本編


この記事は↓の続編です.

元ネタはtkqさんの名作↓.

エルデシュ・ナンバー

いちいち元記事に戻るのは面倒!という方のために元ネタの元ネタの説明を再掲します.

計算機科学界隈のジョークとして生まれた指数として,エルデシュ・ナンバーがあります.エルデシュはハンガリーの数学者で,放浪するような生活を好み,その先々でおびただしい数の共著論文を執筆したことで知られています.そこからエルデシュの友人は,「エルデシュと共著関係にある研究者を1,その研究者との共著がある研究者を2,...」のように,共著関係でエルデシュからの近さをはかる数値であるエルデシュ・ナンバー(エルデシュ数,エルデシュ距離)を考案しました.

https://note.com/konakalab/n/n7d1aac0f0f80

これを映画の共演関係に拡張したベーコン・ナンバー(ケヴィン・ベーコンとの共演関係に基づく同様の数値)なども有名です.Jリーグでハブになりそうな選手ということでtkqさんがJリーグでの出場年数,所属クラブ数,名前の音感,などを考慮して,マルキーニョス選手を選ばれました.

1年前の記事では,実はマルキーニョス選手はハブではなかった!という事実を提示して終わったのですが,1年シーズンを重ねて同僚関係も積み上げられたので,2021年シーズン終了版での同様の距離を計測することとしました.

ネットワーク上での「距離」や「中心の度合い」

今年の記事ではさらに,ネットワーク内での「中心の度合い」を計測する指標を複数計算し,それらから総合的に「Jリーグの中心」は誰か?という疑問に定量的にこたえたいと思います.

ネットワークと距離の定義

ネットワークとして,「同一年に同一クラブで出場経験がある」関係の選手間を結び,その距離を1とします.2選手間の距離はその間の最短経路の長さで定義します.

元データはJリーグ公式(J.LEAGUE Data Site)のみを利用しました.したがって,ほかのリーグでのチームメイト関係は反映されていません.

例:データサイトは五十音順で検索できるのですが,その最初の阿井 達也(Tatsuya AI)選手からンドカ ボニフェイス(Boniface NDUKA)選手へつながる最短経路は大柴 克友(Katsutomo OSHIBA)選手富澤 清太郎(Seitaro TOMISAWA)選手で,距離は3です.

データサイトにエントリがあり,かつ公式戦出場経験がある選手が5683人記載されていましたので,全員とすべての組み合わせに対して距離を計算しました.

中心性の指標の数々

  • 平均距離:ある選手から他の全員への距離を計算し,その平均を取ります.この値が小さいとJリーガーとの同僚関係で中心に近いのではないか?という指標です.

これ以外にもネットワークの中心にいるかどうかを示す指標はいくつか提案されています.その中でも有名かつMATLABで用意されている指標をいくつか計算します.

以前試合中のパス数で計算してみた記事もあるので,関心のある方はこちらもぜひ.

  • degree(次数):その選手との同僚関係にあった選手の人数を表します.

  • betweenness (媒介中心性):betweennessは「任意の二選手間の最短経路を選択した場合に経路上に選ばれる頻度」です.「その選手を経由しないと他の選手に最短距離で近づけない」ような選手が上位に来る指標です.

  • eigenventor, pagerank(固有ベクトル,ページランク):いずれも「ネットワーク上をランダムウォークしたと仮定したときの滞在確率」の説明を意図していますが,pagerankではリンク構造と無関係にランダムにノードを選ぶように修正されています(Googleの検索アルゴリズムに組み込まれたことで有名な指標です)

これら5個の指標それぞれで順位をつけ,それらを一つの総合順位にまとめます.値の分布や大きさが全く異なるので,順位を重要視し,それぞれの指標での順位の積を採用することとしました.順位の積はスポーツクライミングで採用されたことでも有名ですね.

結果

さて,大変前振りが長くなりましたが結果です.総合ランクトップ20選手を図示します.

Jリーグの中心性ランキング,トップはあのレジェンド三浦知良選手でした!
2021年も公式戦出場を記録したことで選手間の距離を縮めています.平均距離では大黒将志選手の後塵を拝して2位となるも,3つの指標で1位となるなど圧倒的な中心性を見せつける結果となりました.

昨年の記事で平均距離が最小であった土屋征夫選手ですが,平均距離で3位,総合で4位でした.そのほか上位には納得の名選手から意外な選手まで多様な顔ぶれがそろいました.
ちなみに,マルキーニョス選手の総合ランクは168位でした(平均距離108位.その他の指標は177位~293位).

全選手,2021年シーズン終了時の計算結果を公開します.Googleスプレッドシートへのリンクです.

最後に,5683人から構成されるネットワークの図を提示して本稿を締めくくります.色は総合指標値に対応しています(青:高順位,黄色:低順位).おおむね,総合順位が高い選手ほど中心に配置されやすい設定で描画しました.選手間の同僚関係は非常に薄い青線で描画しています.

Jリーグでの同僚関係のグラフと中心性

また来年,その気になったら更新するかもしれません.それでは!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?