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マルキーニョス・ディスタンス/リローデッド

概要

  • Jリーグでの同僚関係の距離を1年ぶりに再計算してみた.

  • グラフの中心性の指標をいくつか計算してみた.

  • その結果,あのレジェンドがやっぱりJリーグの中心であることが判明した.

本編


この記事はこれらの続編です.

元ネタはtkqさんの名作↓.


エルデシュ・ナンバー

いちいち元記事に戻るのは面倒!という方のために元ネタの元ネタの説明を再掲します.(手抜きこの記事で初めて知っていただく方のために,1年前の記事の複製です.見覚えのある方はスキップ!)


計算機科学界隈のジョークとして生まれた指数として,エルデシュ・ナンバーがあります.エルデシュはハンガリーの数学者で,放浪するような生活を好み,その先々でおびただしい数の共著論文を執筆したことで知られています.そこからエルデシュの友人は,「エルデシュと共著関係にある研究者を1,その研究者との共著がある研究者を2,...」のように,共著関係でエルデシュからの近さをはかる数値であるエルデシュ・ナンバー(エルデシュ数,エルデシュ距離)を考案しました.

(蛇足ではありますが,(査読ありの口頭発表論文などを含んでよければ)私のエルデシュ数は5以下であることが判明しています.)

このような「近さ」の定義は,スタンレー・ミルグラムによる有名な実験などで知られるいわゆる「6次の隔たり」のように,社会システムには知り合いが非常に多いハブとなる人物とその周辺の集まりがあり,結果として人口から予測されるよりは短い距離で任意の二人の間に経路が存在することを示しています(「6次の隔たり」「スモールワールド現象」などを調べてください).エルデシュは明らかにハブであり,エルデシュ・ナンバーが4の時点ですでに10万人以上の研究者が含まれるようです.

これを映画の共演関係に拡張したベーコン・ナンバー(ケヴィン・ベーコンとの共演関係に基づく同様の数値)なども有名です.Jリーグでハブになりそうな選手ということでtkqさんがJリーグでの出場年数,所属クラブ数,名前の音感,などを考慮して,マルキーニョス選手を選ばれました.



2020年の記事では,実はマルキーニョス選手はハブではなかった!という事実を提示して終わり,2021年ではあのレジェンドがJの中心であったことを示しました.

ネットワーク上での「距離」や「中心の度合い」

今年の記事では2021年バージョンを踏襲し,ネットワーク内での「中心の度合い」を計測する指標を複数計算し,それらから総合的に「Jリーグの中心」は誰か?という疑問に定量的にこたえたいと思います.

ネットワークと距離の定義

ネットワークとして,「同一年に同一クラブで出場経験がある」関係の選手間を結び,その距離を1とします.2選手間の距離はその間の最短経路の長さで定義します.

元データはJリーグ公式(J.LEAGUE Data Site)のみを利用しました.したがって,ほかのリーグでのチームメイト関係は反映されていません.

データサイトにエントリがあり,かつ公式戦出場経験がある選手が5961人記載されていましたので,全員とすべての組み合わせに対して距離を計算しました.

中心性の指標の数々

  • mean distance(平均距離):ある選手から他の全員への距離を計算し,その平均を取ります.この値が小さいとJリーガーとの同僚関係で中心に近いのではないか?という指標です.

これ以外にもネットワークの中心にいるかどうかを示す指標はいくつか提案されています.その中でも有名かつMATLABで用意されている指標をいくつか計算します.

以前試合中のパス数で計算してみた記事もあるので,関心のある方はこちらもぜひ.

  • degree(次数):その選手との同僚関係にあった選手の人数を表します.

  • betweenness (媒介中心性):betweennessは「任意の二選手間の最短経路を選択した場合に経路上に選ばれる頻度」です.「その選手を経由しないと他の選手に最短距離で近づけない」ような選手が上位に来る指標です.

  • eigenventor, pagerank(固有ベクトル,ページランク):いずれも「ネットワーク上をランダムウォークしたと仮定したときの滞在確率」の説明を意図していますが,pagerankではリンク構造と無関係にランダムにノードを選ぶように修正されています(Googleの検索アルゴリズムに組み込まれたことで有名な指標です)

これら5個の指標それぞれで順位をつけ,それらを一つの総合順位にまとめます.値の分布や大きさが全く異なるので,順位を重要視し,それぞれの指標での順位の積を採用することとしました.順位の積はスポーツクライミングで採用されたことでも有名ですね.

結果

さて,大変前振りが長くなりましたが結果です.総合ランクトップ20選手を示します.

Jリーグ中心性ランキング2022年版

Jリーグの中心性ランキング,トップはあのレジェンド三浦知良選手でした!
2022年はJリーグからは離れてしまいましたが,堂々の連覇.平均距離では大黒将志選手,山瀬功治選手の後塵を拝して3位となるも,2つの指標で1位となるなど圧倒的な中心性を見せつける結果となりました.山瀬選手は昨年7位からの躍進.山口に移籍し同僚を増やしたことが要因となったようです.2023年も山口と契約を更新.J公式戦に出場できれば他の新加入選手次第では2023年末に1位が交代する可能性がありますね.

2020年の記事で平均距離が最小であった土屋征夫選手ですが,平均距離で4位,総合で8位(2021年4位)でした.新しい選手が入ってくると中心がより最近にずれてくるわけですね.そのほか上位には納得の名選手から意外な選手まで多様な顔ぶれがそろいました.

ちなみに,マルキーニョス選手の総合ランクは206位(2021年末168位)でした.

最後に,約6000人から構成されるネットワークの図を提示して本稿を締めくくります.色は総合指標値に対応しています(青:高順位,黄色:低順位).おおむね,総合順位が高い選手ほど中心に配置されやすい設定で描画しました.選手間の同僚関係は非常に薄い青線で描画しています.

また来年,その気になったら更新するかもしれません.それでは!



Jリーグでの同僚関係のグラフと中心性(2022年終了時)


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