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【心緒詩】「ばぁちゃん」が言った言葉

小さい頃、ばぁちゃんと手をつないで散歩に出かけた。
疲れるとおぶってくれて…。
ばぁちゃんは、いつもいつも、私の味方だった。

朝から仏前でお経を読む、ばぁちゃんは、
お経が終わった後にお決まりの言葉を言う。

「今日もみんなが元気で平和で過ごせますように」と。

そういって、これでもかと体や頭をなでてくれる。
私は嬉しくて、ぴったりと横に座りお経が終わるのをじっと見つめていた。

ばぁちゃんは、いつも自分の事より私のことを心配していた。

おなかすいてないかい?
風邪はひいてないかい?
何時に帰ってくるんだい?

年頃になると、そんな優しさに慣れてしまい、
ばぁちゃんを遠ざけてしまった時期があった。

それでもばぁちゃんは、

おなかすいてないかい?
風邪はひいてないかい?
何時に帰ってくるんだい?

気にせず私に聞いてきた。

その言葉が当たり前すぎて、気にもならなくなったころ、
おばぁちゃんは物忘れが激しくなった。

遠いところを見て、昔の話をしながら今食べ終えたはずなのに、
ご飯はまだかという。


・・・・・・。


まさかとは思ったが・・・。



・・・認知症だった。


数年が立ち、家で生活するのが困難になったばぁちゃんは、ある日、施設に入ることになった。
施設に入った当初、入院してると勘違いして、
会うたびに「はやく家に戻らなくっちゃ」と言っていた。

そんなことも言わなくなってきた頃、
仕事が忙しく、なかなか会えない日が暫く続いたことがあった。

ばぁちゃんに会いに行った両親からの話なのだが、
二人で会いに行き楽しく話していると私の話題になったという。

話していると、穏やかなばぁちゃんが急に興奮し、

「早く帰って、もう、今すぐ帰って」といいだしたらしい。

その時、よく分からずキョトンとした両親は、次にいったばぁちゃんの言葉を私に伝えた。

「早く帰って、もう、今すぐ帰って」

「うちであの子が一人ぼっちで待ってると可哀想でしょ!!」

すでに実家を出て県外で暮らしていた私は、受話器ごしに、その言葉を聞いて涙をこらえるのが必死だった。

現実がはっきりとわからなくなってしまった祖母は、小さい頃に、よく一人で留守番していた私を思い出し、

両親へ必死に、

「あの子のために早く家に帰っておやり」と、そう訴えたのだ。

認知症になって、記憶が消えても、

おなかすいてないかい?
風邪はひいてないかい?
何時に帰ってくるんだい?

と同じように想っていると思うと泣けてきた。
家族思いで、いまだに私を心配するばぁちゃんに、

今、何もしてやれないのがとてもやるせない。

施設にも入れない。
顔も見れない。
話すことも難しい。

認知症の壁がどんどん邪魔して、ばぁちゃんの今を奪っていく。

またいつか、「やっと会えたね。」と笑って両手で、ばぁちゃんの頬を包んであげたい。

そんな風に優しく触れることさえ難しくなったこの状態が、はやくはやく、明けますように…

ばぁちゃん、ばぁちゃん、寂しくないかな…。

ばぁちゃんに、今、心から会いたい。

このような心の言葉をつづれるのは、
Noteという場所に出会えたからだろう。

これを読んで、是非、大切な人を思い出し
いま、できるだけの触れ合いをしてほしいと思う。

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