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私にヨガの先生はできません!【第二十四話】ひとつ増えた理由
【第二十四話:ひとつ増えた理由】
「笹永さん、本当にありがとうございました!」
雲井さんとアロマディフューザーを片付けていると、彼女はあらためてお礼を伝えてくれた。
「ぜんぜん。こちらこそ、色々お借りできて助かりました。あ、あの、ちょっと気になったんですけど」
「はい! なんでしょう?」
「たしか、橘さんってもともとミュージカルのダンサーをされていて、その後、一度フリーのインストラクターとして活動されていますよね?」
「はい。私もそう聞いたことがあります」
雲井さんがアロマディフューザーのコードをまとめながらうなずく。
「ここに入社されたときには、すでにヨガのスキルは持っていたってことですよね」
「そうなりますよね。私も当時、いたわけではないですけど」
「さっきの方は、私のレッスンで橘さんの初期の頃を思い出したっておっしゃっていました。ということは、私と同じ研修をどこかで受けていらっしゃるのかな、と……」
「ああ! そうです、そうです! 入社したときにヨガの資格も持っていらっしゃったんですけど、思うところがあったらしく、あらためて研修に参加したらしいです」
「そうだったんですね!」
「私たちと先生は同じですよ。それで、橘さんに言われたんですよ。いくつかスクールに通ったことがあるけど、RIKO先生はとくにわかりやすいって。だから、研修を受けられるならラッキーだと。自信を持って、レッスンデビューできるよって」
「へえ!」
橘さんがそう言うくらい、凄い先生から学んでいたことを今更ながらに誇りに思う。
「私たち、ついていますね」
雲井さんが笑った。
その後、私は軽くシャワーを浴びて、ヨガウェアから私服へと着替えた。
姉妹店のフィットネスクラブ・Altairに来てから、もう二時間も経っているのが不思議な感じだ。
そんなことを思いながら、お手洗いの扉を開ける。
「これ!!」
視界に飛び込んできたあるものを目にするなり、私は扉を閉めてオフィスへと飛んで行った。
その勢いに驚いたのか、オフィスにいた六人のスタッフが一斉にこちらへと視線を向けた。
アルタイルは規模が大きい分、オフィスの広さも、スタッフの多さも、うちとは大きく違っている。いや、今はそんなことに感心している場合じゃない。
「笹永さん? どうしました?」
雲井さんが尋ねてくる。
「あの! お手洗いの壁に貼ってあった脂肪燃焼サプリのポップ、どなたがデザインされたんですか?! すごくインパクトがあって、一瞬で目に飛び込んできたんです」
私はそこまで言い切り、一人で興奮していることに気が付いた。
「あ、すみません……。あまりに、良いポップだったから、つい」
急に恥ずかしくなり、声のボリュームを下げる。思わず声が上がるくらいに、素晴らしいデザインだったのだから仕方ない。
そういうの、私はあまり詳しくないけど、自然と見てしまうだけじゃなくって商品を購入したくなるくらいのポップだった。
「あ、私が作ったんです。雲井さんが、ポップを描いてくれるスタッフを募集していたので、私でよければ、と。えっと、褒めてくださってありがとうございます」
片手を小さく上げたのは、アロマの準備をしてくれていた絵馬さんだった。私服姿だから、これから休憩か、仕事上がりだろう。
ほんのりと顔が赤くなっている。
「絵馬ちゃんはデザインの勉強をされてるんです。ね?」
雲井さんが言った。
年が近いこともあってか、二人の間には仲が良さそうな雰囲気が漂っている。
「はい。勉強といっても、半分趣味みたいな感じですよ。通信講座ですし。通っている短大も、デザインとは関係ない学部です」
絵馬さんはそう口にする。
「えー。でも、デザイン系の仕事から内定もらったんでしょ? それ、スキルが認められたってことだよ」
雲井さんは、そう言って小刻みにうなずいた。
「本当にすごいです。あの、今私、ホットヨガスタジオでルイボスティーの物販しているんですけど、全然売れなくて……。もしよかったら、作るときのポイント、何かひとつでも教えてもらえませんか?」
私はお手洗いでポップを見た瞬間、この惹きつけるデザインを参考にして、ルイボスティーの販売にとりいれられないかと思った。
「あ! それなら、先日みたいに、業務として描いてもらうのはどうでしょう? もし、絵馬さんがよかったらだけど」
雲井さんが名案だというように、両手を叩いた。
「描かせてもらえるなら嬉しいです。しかも、私、まだデザイナーと呼べるかどうかもわからないのに、前回に続いて時給もお支払いいただけるなんて」
絵馬さんはそう言って、私と雲井さんを交互に見た。
「決まり! ただ、絵馬ちゃんの契約はアルタイルとだからな。ベガの店舗で使うポップを描いてもらって、その分の時給がこちら付けになるのは、どうだろう」
雲井さんは独り言をいうように、ぶつぶつと呟く。
「たしかに、ややこしそうです。ダメって言われる可能性も。一度、私から、岩倉店長に確認してみますね。また、ご報告します」
私はそう言って、うなずいた。
「ありがとうございます。本当にスキルが高いわけじゃないんですけど、少しでもお役に立てるようならよかったです」
絵馬さんが小さな声で言った。謙遜というよりも、本当に自信がないような口ぶりだった。
びっくりした。
こんなに素敵なデザインなのに!
よし。もしも、絵馬さんにポップを描いてもらえるなら、たくさんルイボスティーを売って、ポップの威力は凄かったですよってお伝えしよう。
ルイボスティーの物販を頑張りたいと思える理由が増えて、私はより一層、エンジンがかかるのを感じた。
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