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技術を広めるためにあえて特許を取るという考え方

弁理士という仕事をしていると大学の仕事をすることもあります。そして、よく出てくる話が「特許は独占排他権。発明を独り占めするのはけしからん!」という話です。「確かになぁ。独り占めは良くないなぁ。」と思うかもしれません。よい技術であればあるほど世の中に広まるべきであるから、特許権等の独占排他権は取得するべきではない、ということですね。

そう思ったあなたは良い人です。しかし、世の中、良い人ばかりではありません。例えば、ある技術について特許権を取得しなければ、本当に世の中にその技術がどんどん広まっていくのでしょうか?そうなることもありますが、そうとも言い切れないこともあります。

世の中に技術を広めるために、あえて特許をとって、その使い方を考える方がよい、ということもあったりします。

基本特許を持っている場合

「基本特許」、聞いたことはありますか?

ある技術体系において核となる技術に関する発明についての特許を言います。「基本特許」は核となる技術に関するものなので、実際に世の中に出てくる製品・サービスを考える場合、「基本特許」だけではなくその周辺の技術についての特許も必要になってきます。

例えば、画期的な「化合物」を生み出したとしましょう。その「化合物」、うまく使えば様々な製品に応用できるものだとします。

しかし、様々な製品をいざ作ろうとする場合、製品開発において「もっと化合物の量が必要だ」とか「化合物の純度をもっと上げなければならない」とか、あるいは「この製品を作るには、特殊な製造方法も必要だ」等々の問題が出てくることが普通です。

そういった数々の問題を解決するための技術が、「基本特許」に関する発明から誘発されて改良発明や応用発明として生まれてきます。そのようにして生まれた改良発明等は、基本特許の発明の利用発明として別個独立に特許権が成立する場合があります。

いわゆる利用発明に関する特許権は、基本特許の特許権者の許諾がなければ使うことができません(特許法72条)。おおもとの権利者の許しがいる、ということです。一方、基本特許の特許権者も、利用発明の特許権の権利者に許諾を得なければ利用発明を使えません。

そのため、様々な利用発明がなされて特許になったとしても、基本特許の特許権者が許諾をしない限り、利用発明の特許が世の中で使われることはありません。もちろん、基本特許の特許権者が自分の権利を第三者に許諾しない限り、基本特許自体も世の中で第三者に使われることはありません。

「やっぱり、特許権を取るべきではないんですね」と思われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?

もし基本特許について特許権を取得しなかったらどうなるでしょうか?

基本特許を持っていないと結構大変

基本特許を取っていない場合、当然、基本発明は誰もが自由に使えます。

したがって、基本発明をもとになされた様々な利用発明について、利用発明に関する特許権が成立しない限り、誰もが自由に利用発明を使えます。

「いいことですね!」と思いますよね。

しかし、問題が発生しない状態を望むにはその前提があります。それは、利用発明をした第三者がすべて「良い人である」ということです。

どういうことか?

それは、利用発明をした人々も利用発明について特許権を取得しないか、または、特許権を取得したとしても、取得した特許の発明を第三者が使った場合に裁判所に訴えない、という前提です。

例えば、基本発明をした人が特許を取らず、基本発明を世の中に開放したとします。そして、基本発明をもとに赤の他人のAさんが利用発明を生み出し、Aさんがこの利用発明について特許権を取得したとします。「化合物の発明」の基本発明があり、「純度の高い化合物を大量安価に作れる発明」という利用発明のような場合です。

そうすると、Aさんのみが利用発明を独占的に実施できます。もしこの利用発明が、ものすごく大きな価値を有する発明だった場合にAさんが本当に利用発明を独占したとしたらどうでしょうか。

基本発明をした人が「これは本当に有用な発明だから、特許は取らずに開放しよう!」と考えたにもかかわらず、基本発明をもとに利用発明を発明したAさんは利用発明について特許を取得した上、それを本当に独占しています。そのため、利用発明が世の中で自由に使われる場合に比べ、利用発明の社会への広まり方は小さくならざるをえません。

しかも、この利用発明を更に利用して新たな発明をしたとしても、その発明については利用発明の特許権を持っているAさんの許諾を得なければ使えません。

そうすると、基本発明をした人が、基本発明や、基本発明を実際に世の中で使えるようにした利用発明が世の中に広まることを望んで基本発明を開放したのに、利用発明について特許を取った赤の他人のAさんの存在により、基本発明が世の中に広まりにくくなってしまいます。

では、基本発明、そしてその利用発明を世の中に広めたい場合、どうしたらよいでしょうか?

あえて特許を取ってコントロール

答えは簡単です。基本特許を取得した上で、基本特許を第三者にライセンスするのです。

「ライセンス?やっぱり金をとるんじゃないか!」

いえいえ、権利は使い方次第です。「ライセンス」条件は権利者が自由に決められます。無償あるいは安くライセンスすることもできます。

とはいえ、基本発明を世の中に広めるという目的が達成されるように、ライセンス条件を工夫する必要はあります。

例えば、基本特許を使う場合、
・権利者への報告
・基本特許を利用する目的が公正なものであること
・基本特許を利用して創り出した新たな利用発明について特許権を取得した場合、リーズナブルな条件で第三者に利用させること
等の条件を工夫する必要があります。

要は、基本特許をしっかりと握り、利用発明をコントロールする、ということです。

まとめ

世の中に基本発明を広めたいのであれば、あえて基本特許を取得し、基本発明が誤った用いられ方をされないようにコントロールしながら、基本特許を自由に使わせる、という方法もあると思います。

特許権という独占排他権を取ったからといって、額面通りに他者を排除する必要は必ずしもありません。技術を広めるための「ツール」、仲間づくりのための「ツール」として特許権を使う道もあると思います。


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 弁理士 今 智司
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