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学生時代の思い出【寮その3】

危機的状況になった時、時間がゆっくりと流れる描写は正しい。
そう、あの時確かに、私の周りは時間がいつもの5倍以上はゆっくりと流れていた。
眼前に迫りくるブロック塀、この時間の流れなら弾丸ですら避けられる…
そんなはずあるかい!無理だ。
それは真実を誇張したアニメや映画の世界だ。

ガン!!

真っすぐに見つめてたブロック塀の角に私の前頭部が当たり、脳内に鈍い音がした。見えてるなら避けても良さそうだが、所詮は一般人。
必死のパッチの真っ最中に、的確に体が対処するなんて無理。

最近もこんな音聞いたなぁ…(寮その2を参照プリーズ)
そして、暫くこの世界には太陽が無くなった、真っ暗になった。

時を戻そう Byぺこぱ


この時代には存在していないはずだが、まあそれはそれで。
時代考証は甘めでオナシャス。

私は、相変わらずMTBに乗って走り回っていた。
彼女に会いに行くために、彼女の住む宇治までの片道20㎞以上を自転車で夜中に走る青春小僧だった。
しかしながら、京都は坂なのだ。
帰り道がキチぃ…

歩いて観光しているだけなら、銀閣寺辺りでしか感じないであろうが、京都は例えるなら片側だけ足を取って傾いた碁盤だ。
そうでなければ、市内は基本的にどこもかしこも湿地帯のようになり、
鴨川デルタだらけになるだろう。
だが、圧倒的便利さも忘れてはならない。市内中心部は殆どが一方通行である。あっちにもこっちにも自由自在、東奔西走するならば自転車が最高の交通機関である。

もう、大体バレて来ている気がするが、私の母校はその京都の大学の中でも最も高い所にあると言って差し支えない。
京都の山猿と異名を頂戴していた時代もあるらしい。

上賀茂神社まで緩やかだった坂が、登校する気力を試すかの様にそこから一気にきつくなる。
私は毎日その挑まれた勝負に負けていた、負けて負けて負けまくっていた。
私が大学に行かなかったかのは、坂のせいだ。と、言うことにしておく。

さて、そんな坂を攻略する為の文明の利器、エンジン。
そう、私はバイクに目を付けた。
原付でええやん。と言うのが通常の考えなのだが、中型(当時)二輪免許を取る事にしたのだ。
だってカッコええやん?
生協を通じてほんのちょっと安くなったが、それでも高い免許を取る事にした。

そして、その事件は2度目の自動車学校への通学時に起きた。

春先の事で、まだ山上遊園地たる我が大学の周辺はまだ寒く、道には凍結防止の塩化カルシウムがざらざらと撒かれている。
通常のアスファルトの上であれば、隙間に入りその硬さを実感する事はないのだが、横断歩道上となれば話は別だ。
ただの固体。しかもまあまあ硬いので、人が踏んだ位では殆どその姿を変える事はない。床にぶちまけた金平糖と同じ。

私の学校へ行く気力を打ち砕く坂は、帰りには楽を与えるだけの下りになる。そこを競技用で下る訳で、トップスピードは原付など余裕でぶち抜ける。
ちょっと先のリスクマネジメントも出来ない頭の出来で、しかもつい先日後頭部をぱっくり割っているにも関わらず、全速力でそのザラザラに乗っかった。
タイヤはもう一瞬で路面ではなく、固形物の上にあり、元から地面と仲良くくっつく気など毛頭ない固形物は、一瞬でどっかに飛んで行き、
またしてもニュートンのリンゴは私を裏切らず、重力のままにすっ転んだ。

その固形物達は、自転車のタイヤのみならず、私自身をも路面との摩擦の間に入り、これでもかと滑る距離を伸ばしたのだ。
非常事態宣言が発令されている脳内は、解明不可能な人知を超えた能力を発揮し、(できれば入試の時に欲しかった)相対性理論では不可能と証明されている時間を歪めることに成功していた。

うむ、長々と説明したが、単刀直入に言うと

アホ学生がスピード出しすぎ、自転車ですっ転んだ

と言うことである。
日本語と言うのは難しい。

そして、転んだ先に鎮座するブロック塀、しかも端っこの角に私の頭が突っ込んだのだ。
動的エネルギーが強制的にゼロになる時の衝撃はすさまじい。
ガン!だか、ドン!だか、ドス!だか知らないが結構な音がした。

「痛ってぇ・・・」と言いながら立ち上がると、
ボタボタと垂れる液体。血である。
しかも、こんなに一瞬でこんなに出るの?と言う位の量が垂れる。
上を向くと服に垂れるので、下を向いていたが数秒で血溜まりが出来た。

周りに居た人たちからのティッシュは数秒で搾れる程の血を吸い、
どうして、いつも事態を把握できないのか、暫く待てば大丈夫と言い、固辞したにも関わらず、救急車がほどなく到着。(ありがとう)

連れて行かれた病院は、先日と同じ。
搬送するのに担架も要らない様子に、救急車はサイレンを鳴らさず夕方の渋滞の中を信号を守りつつ、緩々と進んでいく。
うん?なんで??
まあ、いいか・・・

病院到着後、先生は一言目から
「あれ?この間も来てるよね?その時も頭切ったんだよね?」と呆れ気味。
まあ、そりゃそうだわな。
毎月頭カチ割られるアホはそうそう日常社会にいない。
新日本プロレスだって、数か月に1度だろう。
今回もX線は撮らなかった。
きっと貧乏学生を心配して、安くあげようとしてくれたんだろう。
そうだ、そうに違いない。間違っても取りっぱぐれがあると嫌だなんて、崇高な医師は考えていないだろう。

自動車学校には救急車が来る前に連絡を入れ、遅れることにしておいた。
治療後、実車教習をしていたのだが、突然顔を見たインストラクターが停止を命じてきた。
「おい!!大丈夫か!!何があった!!」と必死の形相。

私は何の事か分からず。

「血が頭から流れてるぞ!途中でこけたのか??」

そう、縫合、ガーゼはしていたのだがヘルメットの重みでまた血が出ていたのだ。
戦争映画のヒーローばりに、額から鼻筋にかけて血が固まっていたのである。
うん、普通に考えて一般社会でそんな奴いない。焦るのが当然の反応。
そんな奴が居たら怖いに決まってる。
流血して歩いてるのは、警察24時の世界だけだ。

どうにも危機意識の抜けているのは、私の方である。
教習が遅れるとお金が追加でいる事だけは分かるので、その日は最後まで教習を受け、ちゃんとハンコももらった。
救いようのないアホである。
1週間ほど出禁になったのは、言うまでもない。

教官の中で流血野郎として有名になっていたが、ストレートで卒業し、無事免許取得。
だが、アホ学生は止まらない。

次回、ピンボールの玉の気持ちが理解出来る に続く




自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…