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とある結婚式二次会にて

ええ、私が全面的に悪いのです
それは全て承知の上なのです
先に懺悔をすれば良かった
後悔先立たず
悔やんでも悔やみきれないある男の物語・・・



とある友人の二次会にお呼ばれし、席に座ると目の前に美人
おお、なんて気の利く友人なのだ
だが、初対面とは思えない、はて?何か仕事で知っていたか?
しかし、全く名前も思い出せないため、お久しぶりですとも切り出せない

目が合った
微笑みかけられる、これはいい感じかも知れない
二次会は出会いの場だなんてことも聞いた事があるが、本当にあるんだ
その美人はこう言った
「ご無沙汰しております、覚えていらっしゃらないのですか?」
と・・・

いや、こう言ってはなんだが過去にワンナイトの記憶はない
記憶のないワンナイトもない(意味不明)

きっと私の目はオリンピック自由形決勝並みに泳いでいたであろう

・・・

封印していた記憶が蘇った


それは数年前に遡る
当時はスマホもないので、友達の友達で紹介や合コンが出会いの場であった
彼女がいない私は、この二次会の主役に市内でも有名なお嬢様女子大に合コンをセットしてもらったのだ
もう、そこは我らの大学からは指を咥えて見る以外に、向こうから何の興味も示されない程に縁遠い存在なのだ
もう、人間と猿山のサル並みの違いである
お前にはイヌイットの親戚がいないか?と聞かれても困るくらいに縁遠い
そして、縁が繋がっている価値はアメリカの大統領の電話番号を知っているくらい価値があったのだ

そして、事前に散髪をしておく位に舞い上がり当日を迎え、その中でも一番の美人と電話番号を交換する事に成功した
我が世の春である
だが、お嬢様にありがちな実家暮らしであった
大切に育てられたお嬢様が、見ず知らずの土地で一人で暮らすなぞ言語道断
悪い男が心配に決まっている
それでも何とか次は1対1で会う約束を取り付け、デートした

そして、価値ある縁を掴んだ私は自慢がしたくなり、様々なところで話した正に好物の芋を目の前にした浮足立ったサルである
それを聞いた男たちは、地獄に垂らされた蜘蛛の糸に群がる亡者のごとく、私の足にしがみついてきたのだ
合コンいつ?
合コンして
合コンしろ
お前だけを幸せにしてなるものか
怨嗟の波が広がる中、ろくに自分のデートの約束も進んでいないのに
次の合コンをセットする羽目になった

群がる男をこれでもかと蹴落とし、残った数人を選び
我を神と崇める誓いをした男だけを選んだ
そして、快く受けてくれたお嬢様と日時を決めた
ちなみに、私は生まれて初めてお近づきになれたお嬢様にビビり散らかし、まだ付き合ってくださいとは言えず仕舞いである

当日が来たが、どうにも気が乗らぬ
神がきまぐれを起こしたのだ
善の象徴たる神が、天上界からサタンとなった様に
私は何故か、悪の化身である身となり自ら天上界を去った

約束の時間になったが、私は家を出なかった
これと言って特に理由はない
熱でもなければ、車に撥ねられた記憶もない
ただ行きたくない、めんどくさい
電話線は抜いた

スマホも携帯もない時代に、幹事が姿を現さない合コンの結末は考えるまでもないだろう



そう、目前に座る美人はそのお嬢様だった…
さっきまで2次会の主役に感謝しかなかった私の心を返してくれ
天国ではなく、ここは地獄のテーブルではないか!
今から何時間開催されるのか、始まってもいないのにもう帰りたい
真実は知るべきではない、思い出してはいけない思い出もあって良いはずだ

文字に起こせば既にここまで1000文字以上、
だが、ここまで実際にはあの微笑みから1分も経っていないであろう
美人の微笑みとはなんて恐ろしいのか
美しい女性の微笑みには必ず何かがある、と小説も映画もともすれば人類が人類になってから男性のDNAに刻まれているはずなのに、
何故に男はその過ちを永遠に繰り返すのか?
学ばないのか?

私は友人に助けを求めるべく、壇上に目をやった
満面の笑顔だけだった

完全にやられた
仕組まれていたのだ
更に運の悪いことに、私とその女性との間に席があったのだが
これがまたそのお嬢様大学の出で、本当に気遣いの出来る良い方で
「あ、お知り合いで久しぶりなら席変わりますよ?お話したいでしょ?」
と優雅に悪意の欠片もなく、崖に引っかかった最後の指を爺やが磨いたピンヒールで踏んでくださいました
こんなに偶然をいくつも重ねて、もう会いたくない人に会ってしまう機会があるとは、会いたくて会えなくて震えている方々に伝えてあげたいくらいだ

だが、生来のお嬢様、育ちの良い人と言うのは次元が違う
私はテーブルクロスに顔を擦り付け謝罪をしたのだが、
クスクスと笑って、
「あの時は本当に心配したんですよ」と・・・

ああ、サタンになった私には女神は眩しすぎた
もう戻れない天上界から一条の光が差し込んだ瞬間だった
私はその光に手を伸ばした
はて?この哀れな男の姿、どこかで見たことがある

そう、蜘蛛の糸にぶら下がろうとして私が蹴落とした男たちだ
因果応報
表裏一体

だが、諦めきれない私はもっと手を伸ばし
女神に近づこうとする

「もう一度会ってもらえませんか?」と
その女神の優しい微笑みにすがった
やはり男は阿保である



・・・(0.3秒)



「あ、私彼氏いるんでもうないです」
もうそこに女神の微笑みは残っていなかった




自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…