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痛風なくとも

近年地球温暖化の影響か、大型連休頃から真夏日が続く様になりました。寒暖差が未だ大きいこの時期、若いエアマンが足を引きずってタラップを降りてきます。どうしたのか尋ねると、足の甲が痛んでビッコになってしまうとのこと。裸足になってみると、同部が赤く腫れ上がっていました。痛風(英語ではgout)とは、そよ風に当たっても痛むほどの強い関節炎です。長年尿酸が結晶化して体内に溜まり、それが関節面に層状にこびり付くと、飲酒や脱水を引き金にして関節腔内に剥がれ落ちるのです。
尿酸の結晶は温度が低いと脱落しやすいので、痛風発作は四肢末端や肘、耳朶によく見られます。中でも足の甲と親指の付け根が好発部位で、それでエアマンは歩けないばかりか、ラダーもろくに踏めなくなります。当然インキャパ状態になったと云えるでしょう。

一般的に痛風は突然痛むから治さねばならないと認識されますが、内科の先生方に尋ねると痛風発作で死ぬことはないと云われます。つまり関節炎は致死的ではないが、大量の尿酸が腎臓から排泄される際に、尿細管という細い尿路を壊していくため、痛風腎になることが命取りなのだそうです。高尿酸血症を長年指摘されているエアマンが、ある先生から「大雨後の橋の欄干に流木が一杯詰まっているでしょう。あれがあなたの腎臓で起こっているのですよ!」と諭されていました。体内の微細な出来事を日常的な例えでイメージすると、事態の深刻さが分かるものだと感心して聞いていました。

実際、痛風発作を起こすような方は高尿酸血症が数年以上続いているそうです。ですから痛風発作を起こさなくなっても、体内から尿酸結晶をすっかり排泄するにはそれ以上の年月が必要とのこと。尿酸の原料はプリン体という物質で、およそ美味しいものには何でも含まれています。中でも肉類(特に臓物)とビール酵母は含有度が高いことは有名。連休中BBQで焼き鳥屋で生ビールジョッキ片手にガブガブとやるのは最悪の組合せでもっての外、ということです。かつては王様や殿様の病気であった痛風は、今や庶民のコモンディジーズになってしまったのです。

初夏の気候でも、脱水になることは決して稀ではありません。日中と夜間の寒暖差が大きく、紫外線が強いわりにダラダラと汗をかかない分、水分補給が必要と感じないからでしょう。ですから医師からよく勧められるのは、炭酸水を飲用することです。ビールやハイボールやサワーをいきなりがぶ飲みすると、血中アルコール濃度が急上昇すると共に、急速に脱水状態に陥って、痛風発作が惹起されやすい状況になるからです。炭酸水そのものは美味しくないかも知れませんが、炭酸が胃粘膜を刺激して爽快感を与えてくれます。また炭酸水にレモン汁とか黒酢や果実酢を少量加えると、クエン酸が体内に入って、フライト後の疲労感も軽減してくれます。

そうは云っても、フライト後のビールは格別で、それを目に浮かべて飛んでいるエアマンが多いのも事実でしょう。ある先生は「ビールジョッキで飲む杯数分、(炭酸)水も飲むこと!」と指導していましたが、果たしてそんなに飲水出来るか?その先生に実直に尋ねたところ、「それが出来ない人は高尿酸血症の治療薬を飲んだらいいんです...私みたいに...」と正直にお答えになりました。以来、自分も夕食前の炭酸水1-2杯と尿酸治療薬内服が日課となっています。

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