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「委任」の使い方

こんばんは。孤守です。

少々間が開きましたが、前回に引き続き「委任」についてお話ししますね。

市内の県道拡幅事業が進捗し、あなたの所属課が所管する土地の売払いに関し、土木事務所(県庁の出先機関)と交渉のテーブルに着くことが濃厚になってきました。

相手方である土木事務所から受領した契約書案を見てみると、次のような表記があることに、あなたは違和感を覚えました。


 令和○年○月○日
甲 ○○市
  ○○市長 ○○ ○○
乙 ○○県
  ○○土木事務所長 ○○ ○○


首長と相手方に出先機関の職員が登場することにアンバランスさを感じたあなたは、上司に案文を見てもらいましたが、「県が作っている案文だから問題ないよ」と取り合いません。納得がいかないあなたは土木事務所の職員にも訴えますが、「ほかの市町はこれでOKをもらってますよ」とかわされます。

さて、みなさんだったらどう対応されますか?

Q 契約当事者に疑義がある場合、どう対応するか。
① 上司のGOサインに従い、この案文を採用する。
②「長いものには巻かれよ」という格言を思い出し、ネット検索してみる。
③土木事務所長が、県知事からこの契約に関し、委任を受けているのかを確認するよう土木事務所の職員に要求する。

■自治体の長は当該自治体を代表し、予算の執行(契約行為)を担任する(自治法147条、149条2号)

自治体は法人格を有し、自然人と同様に法律行為を行うことができ、その際、自治体を代表するのは原則として首長になります。例外的に、首長の権限の一部をその補助機関(職員)に委任させることができます(自治法153①)が、今回の契約締結権のように首長独自の権限とされるものについては、委任対象に馴染むものではありません。

蛇足ですが、今回のエピソードには、ベテラン公務員の悪癖として名高い「思考停止」、「前例踏襲」、「同調圧力」という全てのエキスが詰まっています。染まることがなきよう身をお清めくださいますようお願いします。

Qは、③が正解です。
通常、首長の権限を補助機関に委任する場合、事務委任規則に定められることが多いです。暫定的な委任(首長の長期不在など)には、決裁行為による委任が行われることがあります。委任がないことが確認された場合には、○○県の代表者を「○○県知事」に改めるよう土木事務所の職員に要求しましょう。

もし、今回のケースで、県知事からの受任がない土木事務所長と契約を結んでしまった場合、「無権代理」(代理権もないのに行われる代理行為)となり、県知事が有効な代理行為と認める余地を残した意味での「効果不帰属」(効果が不確定な状態)の状況に陥ります。

県知事が取り得る手段は、①追認、②追認拒絶、③何もしないの3つです。これに対し、市長が取り得る手段は、①催告(県知事の態度決定を迫る手段)、②契約の取消し、③無権代理人の責任追求、④表見代理の主張の4つになります。

ちなみに今回のエピソードは、私の体験談をデフォルメしたものですが、頭の中をフラットにした状態の直感や良識は大事にされてください。法文に当たってみると、その感覚に整合することが多いものです。

今回はここまで。ではでは。

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