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株式の投資指標PERとPBRの長所と短所

  株式投資において、PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)は、その分かりやすい概念や算出が容易である事などから、多くの投資家に利用されてきた指標です。けれどもその限界や問題が理解された上で、利用されているのか?に疑問を感じ、今回の投稿をさせて頂きます。

   本題に入る前に、これから株式投資を始めようと言う方向けに、両指標について簡単に説明します。両指標についてご理解されている方も、復習としてご一読頂けましたら幸いです。

■PER(株価収益率)                             

 損益計算書は通常、企業の1年毎の業績のフローを表す計算書類です。PER (株価収益率) は損益計算書の一番下の、ボトムラインとも呼ばれる当期純利益に対して、時価総額が何倍まで買われているか、あるいは、当期純利益を発行済み株式数で割った一株当たり利益(EPS)に対して、時価総額を発行済み株式数で割った株価が、何倍まで買われているかを表す指標です。

 例えば、当期純利益が100億円の会社があって、時価総額は2000億円であれば、PERは20倍になります。この時、発行済み株式数を1億株であれば、 一株当たり利益(EPS)は100円、株価は2000円になり、 PERは20倍です。別の角度で見ると、100億円の当期純利益に対し、2000億円の時価総額が付いている事は、益回りが5%(100億円÷2000億円)の時価が付いていると言えます。なお念の為に補足すると、発行済み株式数次第で、株価は変わってくるので、単純に株価で企業を比較する事に意味はなく、経済的価値の評価は、時価総額で比べなければなりません。

 さてPER (株価収益率) の長所ですが、一にも二にも簡単に算出でき、PER20倍であれば、20年でその利益から投資額が回収できる事を表すなど、分かりやすい概念である事です。けれどもそのシンプルな計算式の裏返しとして、粗さや問題、短所も多く含まれています。

 株式市場は、将来により着目するものなので、 PER (株価収益率)の算出根拠となるEPS (一株当たり利益) は、過去の実績でなく、通常は来期の予想EPSを基に算出します。企業価値評価とは、本来、長期に渡る将来業績などに基づき、算出されなければいけませんが、PER (株価収益率) は通常来期を、特別な場合でもせいぜい2期、3期先を断面で捉えて計算されるモデルです。 またPER算出の基礎となる EPS (一株当たり利益)も、会計基準の違いや、減損、引き当て、益出しの実施など経営判断の違いなどによって、各企業によりバラつきが生じます。更に赤字時に算出不能となるほか、利益の大幅な変動時にしばしば異常値が発生します。

 以上から、PERによる個別株の理論株価の算出は、類似企業との比較から導くにせよ、過去との時系列で比較するにせよ、ある時点を断面で切って算出するものであり、長期的な将来業績等を織り込んで算出されるものではなく、あくまで参考値程度に利用すべき指標と考えます。

■PBR(株価純資産倍率)                                次にPBRですが本題に入る前に、初心者の方や復習用として、簡単に説明をさせて頂きます。貸借対照表ですが、配当の流出等もあり、厳密に正確な表現ではありませんが、現在に至るまでのストックや蓄積を表します。借方の「資産の部」ではどんな事業用資産を使って稼いでいるかや、遊休資産など非事業用資産が表され、貸方の「負債の部」では返済しなければならない他人資本が、「純資産の部」は自己資本+非支配株主持分+新株予約権から成り、返済の必要のない資本です。

 PBR (株価純資産倍率)は、非支配株主持分等を除いた、皆様株主の持分や権益である「自己資本(又は一株当たり自己資本/BPS)」に対して、時価総額(又は株価)が何倍まで買われているかを表します。PBRは、翌期のEPSを基に通常算出するPERと違い、直近期の実績の自己資本を基に通常算出されます。なお、英語でPBRは「Price Book-value Ratio (時価簿価倍率)」ですが、日本語での表現は、 非支配株主持分等を含まないので、正しくは株価自己資本倍率などになるでしょう。

 PBR (英訳:時価簿価倍率)は1倍を上回ったり、下回ったりしますが、その理由は投資家が見込む価値と貸借対照表の会計上の価値にズレが生じる事から来るものです。例えば、研究開発資産や人的資源が生み出す将来価値であったり、環境保護に対する要請が高まる中で、石炭火力など今後毀損が見込まれる座礁資産などであったりします。

 PBRも、PERと同様に、ある時点を断面で切り取ったものです。一般に1倍を大幅に下回ると割安だとみなされますが、ただ断面で切り取っても、将来に更なる自己資本が毀損されるリスクもあり、その将来性を詳細に分析する事なく、一概に割安だと判断できるものでもありません。

■結論                                      PERも、PBRも、算出が容易で、分かりやすい概念の指標ですが、けれども、両指標ともある一つの時点を断面で切り取って算出する指標です。それだけで割安や割高などの投資判断や、理論株価を導き出すには脆弱な指標であり、業績や資産などに対する将来予想や分析も併せて行って、補う必要があると言えるでしょう。


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