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リアリティー

 リアリティーは演出できる
例えば水族館ならば、海の生き物を集めて展示し、客に海の中にいるのかと思わせるような演出をする。テレビドラマは、実話や脚本家が作ったストーリーを演者が演じ、まるでその出来事が目の前で起こっているのかと思わせるような演出をする。私たちはそれに共感したり、時に感動もする。

 僕のクラスは昨日放送された恋愛ドラマの話で持ちきりだった。「3人の三角関係はどうなっていくのかな?」とか「水族館デートのシーン、キュンキュンしたよね」とか、そんな声が飛び交っていた。話題の作品だったので僕も見ていたが、少しも共感はできなかった。僕は恋愛をしたことがない。デートもしたことない。水族館なら家族とは行ったことはあったが、水槽の中を窮屈そうに泳ぐ魚を見ても何も感じなかった。そのせいで僕はクラスの会話の輪に入れずにいた。教室を見回すと、一度も話したことのない女の子が僕と同様、1人で座っていた。話し相手がいなくて退屈していたので僕は彼女に声を掛けた。どうやら彼女も昨日のドラマにあまり共感できなかったようだ。それから僕は彼女と会話を続けた。今まで接点がなかったものの、共通の趣味があったり、思っていることが似ていたりして、会話が弾んだ。話していてこんなに楽しいのは久しぶりだ。もっと彼女を知りたい。僕は胸の高鳴りを感じた。彼女の笑顔が昨日のドラマのヒロインに重なって見えた。

 演出はいわば現実を模したフェイクだ。
リアルを知っているからこそ、その演出に共感できる。まずは自分自身でリアルを体験しよう。
僕は明日、彼女とスキューバダイビングに行く。

本物の海の中を見に行こう。


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