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フリートーク・ロックバー読本Ep.7: Wonderful/CircleJerks

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Ep.7はWonderful/CircleJerks。エッセイは「ロックバー読本:新型コロナウイルスをぶっ飛ばせ」に収録されています。

85年アルバム、Wonderfulのタイトルチューン、1曲目。

 小柄な菅原が顔を出したのは多分07年の秋。俺がUpsetTheApple-Cartを初めて間もないころに顔は覚えていたけど名前は知らなかった。その前に奴と最後に会ったのはその15年前、コモンストックの客としてである。奴は当時付き合っていた明美と一緒に来て、その日に店で大喧嘩して別れた。その後明美は店に居ついて色々あったのだがそれは割愛。初めて名前を知った菅原はその明美が自殺したことも知らなかった。

 菅原が小岩でロックバーをやりたいと言った。小岩なら新宿の俺と客の奪い合いもなかろう、地元なら根を張った商売もできようと、俺は知る限りのロックバーのノウハウを伝えた。奴の部屋に行って、クソがこびりついた便器を見て、ばか野郎こんな了見で客商売ができるかと怒鳴ったりもした。

 11年春、3.11の影響か、菅原が店を閉じるという。おいおいそんなレベルの思いで始めたのかよとも思ったが、これまで一円も財産を減らしていないという菅原を立派だと褒めてやった。

 その夏、奴が自死したという報告を受けた。あのトイレの部屋でほぼ液体として発見されたという。

 この世間でカウンターの中にいる店主が自殺するような商売はジャズバーかロックバーしか聞いたことがない。理由は簡単なことで、一番好きなことを商売にしてしまったから、リスナーとしての自分とビジネスとしての自分の相克に苦しむのだ。菅原も閉店の日、お客のリクエストが楽しめなくなりましたと言っていた。馬鹿野郎、昔俺の相棒にもそんなことが起きたと最初から注意したじゃねーか。

 俺は、みんなやりたいことやればいいじゃねーか、という主義で生きているが、この世で一番毒性の高いのは人間で、人間を扱う商売をやる人間には、どこか頭のねじが一つ抜けているような鈍感力が必須だとも思っている。そういう意味で俺の想像力が至らなかったと折に触れ思う。

 この曲は菅原の愛したパンクソング、彼の店はStay Freeといった。

Ep.7はWonderful/CircleJerks。小岩にロックバー「Stay Free」を開いていた菅原さんへ捧げられたエッセイです。

好きなことを仕事にする。誰もが一度は考えることですが、その難しさをこれ以上なくリアルに語っていただいています。

編集後記

今回の話は音楽や映画などのカルチャーを愛し、できれば生業にしたいと考える方に届いて欲しいなと思います。また、コロナで心が挫けそうな方は、新宿でポジティブに生きている西川さんの姿を見に行ってはいかがでしょうか。

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