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大地と豊穣の女神デーメテール~母なるもの、喪失と抑うつからの再生 ギリシャ神話編⑥


ちょうど、今朝NHKの朝ドラ「カムカム エブリバディ」初代ヒロインの物語の総集編を見終わって、パソコンに向かっています。愛する人と結ばれたものの、夫は戦死してしまい、授かった娘を必死に守り育てようとするヒロインの姿は、これからnoteに書こうとしているデーメテールの姿と重なります。

守ろうとしても守り切れず、引き裂かれていく母娘。降りしきる雨のなかで絶望に陥る母の姿は、まさに愛娘ベルセポネーを奪われて抑うつに陥るデーメテールそのものだなあと・・・

 穀物の女神、豊穣をもたらす女神と言われるデーメテールも「傷つきやすい女神たち」のひとりです。

【デーメテールの神話】
ヘーラーと同じく、レアーとクロノスの娘。ゼウスの姉にあたるが、ヘーラーに先立って、ゼウスの4番名の后となり、娘ベルセポネー(次回に登場)をもうけます。

ある日、牧場で花を摘んでいた乙女ベルセポネーが、美しい水仙に心ひかれ、それを摘もうとしたところ、大地がいきなりパックリと開いて、地中から冥界の王ハーデースが戦車に乗って現れ、彼女を地下に奪っていきました。母デーメテールは娘の叫び声を聞いて駆けつけますが、時すでに遅く、娘の姿は消えていました。

デーメテールは我を忘れて探し回ります。ハーデースによって冥界に連れ去られたと知り、この誘拐に夫ゼウスも加担していたと知り、激怒します。

天界を捨て、老女に変身したデーメテールはエレウシースに隠れます。デーメテールはそこで娘をなくした悲しみにくれ、穀物の女神としての働きを行わなかったために、地上には何も実らなくなり、飢饉が襲って、人類が滅びそうになりました。

ゼウスは黙って見ておられなくなり、とうとう使者ヘルメスをハーデースのもとに遣わせ、ベルセポネーを母のもとに戻すように命じます。

ベルセポネーはようやく冥界から天上の世界に戻り母と再会しますが、そのときすでにベルセポネーは冥界でザクロの実を食べていました。

もし食べていなければ完全に母の元に戻ることができたのでしたが、食べてしまったため。一年の2/3を母デーメテールと過ごし、残り1/3は冥界でハーデースと共に過ごすことになりました。

 このようにして母娘が再び結ばれてから、豊穣と成長が大地に戻ったのでした。

【デーメテール元型の特徴】
デーメテールは母親元型であり、強い母性本能に特徴づけられます。そしてそれは生物学的な意味での自分の子どもだけを養い育てることに限定されません。また食物や身体的な世話にとどまらず、情緒的、心理的支えを提供するなど、精神面での滋養を与えることにもエネルギーを注ぎます。

 一方で、養い育てる対象を喪失すると気分が落ち込む傾向があります。例えば子供が巣立ち、母親としての役割を失うと「空の巣症候群」と言われる抑うつ状態に陥りやすいといえます。世話する対象がいなくなると、自分の内側が一挙に空虚になり、悲しみにとりつかれてしまうのです。

子どもを産み育てるにはこの元型の働きはなくてはならないものですが、一方でこの元型が強く働きすぎるとネガティブな側面が顕われます。子どもが手を離れていくことを真に喜べず、いつまでも干渉して、逆に自立を妨げてしまうというようなことです。

子どもに興味がなく、子どもを持ちたいと思っていない女性が意に反して妊娠し、出産し、育児をする場合があるかと思いますが、多くの場合、そのプロセスのなかで、今まで活性化していなかったデーメテール元型が呼び覚まされ、母性の側面を発達させていくということもあります。

【デーメテール元型を生きる人の特徴】
子ども時代は、お母さんごっこが大好き。年下の子の面倒をよく見ます。年頃になるとキャリアを持つよりも、家庭を持ち、母となりたいという思いの方が強く、若くして結婚する場合も多いです。仕事に就くとしても野心や競争心はあまりなく、看護や介護、保育など人を育てたり、助けたりする仕事を好みます。

 相手のニーズを瞬時に読み取り、そのニーズを満たす能力は、母性的なものを求める男性を惹きつけます。このようにしてデーメテールタイプの人は自分を必要としてくれる男性に反応し一緒になる傾向があります。

 子どもができると夫よりも子どもが優先するのが、前回のヘーラーと違うところです。デーメテール元型がほどよく働いていると愛情深い母親となります。

しかしときにこの元型の力が強すぎると子どもをあらゆる危険や傷つく可能性から遠ざけ、守ろうとするあまり、いわゆる過保護な母親になってしまいます。その結果、子どもは自ら問題に対処する力をつけることができずに、何かあると母親を頼る依存的な人になってしまいます。

元々自立心が旺盛な子どもであれば、母親の行き過ぎた心配や干渉をうっとおしく感じて早々に家を離れていくことでしょう。その一方でどこか愛情深い母親を裏切ったかのような罪悪感を抱いてしまうこともあります。

デーメテール元型が強く働き過ぎると心理的にも子どもを束縛してしまう母親になってしまうのです。

 子どもたちが巣立ちの時を迎える中年期は、子どもを自身の唯一の生きがいとしてきたデーメテールタイプの女性にとって難しい時期と言えます。

デーメテールのみに同一化していると、先ほども述べた「空の巣症候群」に陥ってしまうか、なおも成人した子どもを祝福し手放すことができず、子どもの人生を阻害する存在になってしまうか、自らの成長も停滞してしまいます。

 また、デーメテールと同一化していると、求められるままに与えようとするので、気が付けば自身のエネルギーをすっかり他者に奪われて燃え尽きてしまうかもしれません。

 NOを言えないデーメテールは、負担を過剰に背負って疲れ切って、無気力になるか怒りっぽくなる場合があります。その際、直接的に怒りを表すことはなく、相手が困るような非協調的行動でひそかに表出します(受動的攻撃性)。例えば頼まれた仕事を引き受けたものの締め切りに間に合わなかったり、大切な会合をすっぽかしたり、遅れるなどです。

 デーメテールタイプは他者のケアばかりしていますが、自分自身のケアを意識的に行うことが大切です。何か頼まれた際に「今、それをする時間と余力があるだろうか」と自身に問い、ときにははっきりと断る勇気を持つ必要があります。周囲に流れ出ていくエネルギーを自分のために引き戻さなくてはなりません。そして引き戻したエネルギーを自分の創造性のために使うことが、デーメテールを超えた成長へとつながるのです。

 デーメテールタイプは、母としての仕事以外に自分だけの時間を持つことに抵抗を感じます。「こんなことしている場合じゃない。子どもの勉強をみてやらなくては」とか「子どもに留守番させてまで、楽しもうとは思わない」など。

けれど、デーメテール元型が強ければなおのこと、ときには意識的に子どもから離れ、自分の時間を楽しみ、充実感を味わうことが必要なのです。それができるようになると、子どもにも同じように自由にイキイキと生きて欲しいという感情が生まれ、過剰に心配して守ろうとするのではなく、ときには冒険を試みようとする子どもの背中を押してあげることができるようになるでしょう。

 神話のなかで、デーメテールは悲しみに暮れ、さまよいながらエレウシースを訪れ、そこである家庭に迎えられ、デーモポーンという子どもの乳母となります。そしてデーモポーンを育てることによって、自身の喪失の辛い体験に対処していきました。そして完全に娘を取り戻せなかったものの、再会を果たしたデーメテール。苦しみの果てに深い抑うつからようやく抜け出すことができ、大地には再び豊饒と成長がもたらされました。

 このことは何を意味しているのでしょうか。人はどんな喪失にあったとしても、その痛みや苦しみに耐えていくうちに、新しい兆しを感じ始め、傷ついた幹から新芽が生えてくるように、失ってしまった自分の一部を取り戻し、回復していくことができるということです。デーメテール神話は、苦しみを通り抜けた先には必ず成長があることを教えてくれる力強い再生の物語でもあるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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