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こんがらがった糸をほぐす

あらゆるこんがらがった糸というのは、根気よくていねいにほどいていけば、いつかは、すっと一本の糸にもどせる。
逆に、「何か特別にいい方法があるか?」と、それを探そうとすると、
ますますこんがらがることになる。
とにかく、ほどきはじめることしかないのだ。
ほどくことを、はじめる。それしかないのだ。
 糸井重里「ボールのようなことば」(ほぼ日文庫)

 たしかにそうだなあと共感。縫い物好きの私は、これをよく経験する。からまった糸の塊をほぐすのは根気のいる仕事。グチャグチャの絡まりにイライラして、無理に引っ張ったりしたくなる。けれど引っ張るとかえって絡まりは固く厄介な塊となってしまう。しまいにはもうイヤ!と投げ出したくなる。我慢できずにこんがらかった部分をチョキンと切り落として結局は糸を無駄にする。縫い物ならそれもありだが・・・

 心の糸や人間関係の糸の場合はどうだろう。不安、焦り、いらつき、怒り、それらが募れば募るほど、やみくもに無理やりに引っ張ってしまいがちだ。その結果大切な糸が切れてしまい、二度と元に戻らなくなってしまうこともある。

 人生は長い糸を使ってする縫い物のようだ。ときどきなにかの調子に絡まって途方にくれてしまう。苦労なくするりとほどける魔法のような方法はないのだ。そのたびに焦らず、やけにならず、忍耐強くていねいに糸をほぐしていくしかない。

 ほぐす作業は、自分をみつめる大切なプロセス。時間をかけて丁寧にほぐしていくと大切なことに気付いたり、理解できなかったことが少しずつわかったりする。

こんがらがることなく、スイスイと順調に縫い上げる人生を人は求めがちだが、もしかしたら、こんがらがって、ほぐして、こんがらがって、ほぐしてを繰り返す方が味わい深い仕上がりになるのかもしれない。

 糸ほぐしは焦ってしゃかりきになって根を詰めすぎても上手くいかない。ときには少し時間をおいてみる。冷静な自分を取り戻してから、またほぐす作業にとりかかればいい。そうすると案外上手くいったりする。

 苦労の挙句、するりと一本の糸に戻ったときの快感はたまらない。その心地よさがまた前に進む力に変わる。





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