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明治5年の大阪はこうだった~『日本国尽五畿内編』から大阪人を知る

今回の往来物は『瓜生氏日本国尽』から、第1巻五畿内編をご紹介します。

瓜生氏って誰?とまず思いますよね。正式な名前は「瓜生寅(うりゅうはじむ/はじめ)」という、福井出身の官僚であり実業家で、さらに教育者という多才なお方。この方が子ども向けに書いた教科書(往来物)がこの『日本国尽』で、全8巻で構成されています。

「瓜生寅」伊藤博文じゃないよ

タイトル通り、日本全土をくまなく紹介したもので、その第1巻は冒頭の総論でまず、世界はこうなっていて、その中で日本とはこのような位置づけなのです、といった説明からはじまり、次に五畿内の説明に移ります。

畿内といっても今とは少し違って、下の画像のように「山城・大和・河内・和泉・摂津」の5つから成っており、今回はこの中から、現在の大阪を中心とした「河内・和泉・摂津」をご紹介したいと思います。

五畿内の図

河内

河内もまた山城・大和と同様に山の国で海がありません。

東南は大和の国・紀伊の国と接し、山々に囲まれた中にある、台地の上の平らな景勝地です。

西北は淀川が流れ、摂津との境界にあたり、池・沼・水田がたいへん多く、その淀川の流れには、昼は蒸気船、夜は夜船が絶え間なく往来します。

京から摂津の大坂へ向かう旅人に、この水の流れを頼りにしない者はおりません。

国の中心は大和川。流れはまっすぐで、それぞれ枝分かれした小川は、高いところから低いところへ徐々に下がり、西の摂津の海へと流れ着きます。

また、やや南の狭山というところには、畑に注ぐ大池があります。その昔、崇神すじん天皇(第10代)の時代、この地は水が乏しかったのを憂いて掘ったのだそうです。そして、それが日本での池のはじまりと言われています。

人口は21万4900人。東西五里(20km)、南北十四里(56km)。人の性格は老若男女概ね柔和でしょう。気候は温かく、名産物にはかの有名な、河内木綿と金剛砂があります。


和泉

和泉は東南に山々が連なり、西北に海を望むことができます。

国中は多くが平坦で、その北の端に堺という港があります。摂河泉の堺と言い、東に三国の境界があります。いうまでもなく、東は河内、北に摂津、南が和泉なのは明らかでしょう。

ここを堺県とし、県庁を置いて河内・和泉の二国を統括しています。

人口は20万人。東西は五里(20km)、南北は十二里(48km)ほど。気候は河内と変わりませんが、人の性格は義理人情がありません。名産物は酒と鯛です。


摂津

摂津は畿内の北西にあたり、山城・大和・河内の川が合流するところです。南は海で、北は山。古来から難波の津と呼ばれます。

日本の喉に相当し、絶えず船の出入りがあり、ここにすべてが集中しています。それは、比類なき大規模港を証明しているようです。

その中心が大坂府。東西二京(江戸・京)に加えて、三箇の都さんがのつと呼ばれます。

裕福な商家が数多く、商売も繁盛し、たいへんな賑わいで、それも商い次第だと威勢がよいものです。また、居住する外国人も大勢います。

造幣寮では金銀の円形貨幣を鋳造し、兵学寮では数千の陸兵が技と精神力を鍛えます。

府庁の管轄は国内7郡、残りの5郡は西方十里(40km)離れた兵庫県庁の管轄です。

兵庫県内にある神戸という港は近来の交易の中心地で、居住者も非常に多く、近郊の町はとても繫盛しています。

そんな摂津の人口は、78万9000人ほど。土地の広さは東西・南北ともに十五里(60km)。四季は寒暑あれど温かい日が多く、いたって風土は良いところです。しかし、人の性格は誇り高く、身分差に関わらず欲深です。

また、名高い名所として兵庫の西方の有馬山があり、病気を癒す温泉もあります。さらに、摩耶山は布引の滝の水の音が絶えません。ほかには武庫山・神峰山・須磨の浦。

名物の品には、美酒の伊丹酒や、頑丈な御影石。そして天王寺カブや池田炭などがあります。


【たまむしのあとがき】

いつも贔屓の奈良ばかりを話題にしているので、今回は大阪を取り上げてみました。

面白いのは、人の性格があまり良く書かれていないことです。

原文で、河内は「上下男女もおしなべて風俗気質柔らかに」と、これだけは良いのですが、和泉は「人の風俗実義なし」、摂津は「人の気質は虚誇にして、上下ともに欲ふかし」とあります。

和泉の「実義なし」という言葉に、「あり」じゃなくて「なし」?と、三度見ならぬ四度見しましたが、何度見ても「なし」。

摂津は「虚誇」に「欲ふかし」と、ひどい言われようです。

個人的にはこうした毒舌が大好きで、歴史においては事実だけが重視される中、心情が垣間見れる文言は、たまらんのですよ。

そんなわけで、訳が間違っているのではなく、原文がそうなっていることを、大阪・神戸の方が気分を害さぬよう、最後に申し添えておきます。


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