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海と生きる離島の生活 ~ 三島由紀夫『潮騒』

三重県鳥羽市の離島、神島を舞台にした、三島由紀夫の小説『潮騒』。

以前に神島へ遊びに行ってから、ずっと気になっていた。

ネットで文庫本を取り寄せる。
神島の厳しくも豊かな自然を背景に、繰り広げられる若い2人の純愛物語。
恋のライバルや障壁も、うまい具合に出てきて、恋の行方にドキドキしながら、少女マンガのようにも読める。

島の自然風景や、漁師や海女の生活などの描写が、とても綺麗で、すっと入ってくる。
三島由紀夫は文章が綺麗なのだと、うちの母が繰り返し言っていた。

あとがきや、ネットで見つけた感想文などを読むと、これは、最も三島らしくない小説なのだという。
私は、他の三島由紀夫の作品を読んでいないからわからないが、他の背徳、反逆的な作品とは、全く異なるという。

作者がこの小説で、書きたかったものは何なのだろう?

私の考えでは、

神島の自然
自然と一体となって日々を営む、漁師町の生活
素直で屈託のない島の人々

を書きたかったんじゃないかと思う。

私は鳥羽の漁師町から、そう遠くないところに住んでいるので、漁師や海女の人達のこともなんとなく知っている。

島の人にとって、海は庭であり、恵みの場であり、厳しいものでもあるけど、海と向かい合って、肉体労働し、恵みに感謝して、1日が終わる。

小説の中でも、
神に安全を祈願し、豊漁を感謝する人々。
海底の地形を熟知する漁師や海女。
自然と戦うのではなく、自然に逆らわず、味方にして日々を営む姿。
この島が世界観で一番美しいところだと信じる人々。
が出てくる。

そして、そんな島の人達の性格は、
あらっぽくて、ケンカばやくて、大酒飲みが多いけど、
裏表がない、くよくよしない、人を疑わない、根は優しい、素朴な感じだ。

主人公の2人が純粋無垢なのは、もちろんのこと、悪役として出てくる、
安夫が、初江を無理やりにでもものにしようとするところや、
照爺が、悪い噂に逆上して暴力をふるうところも、
とても素直な行動に思える。

作者は、そんな島の生活を讃えたかったんじゃないのか。

島の自然や生活にひたった読書だった。

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