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小説「李王家の縁談」著・林真理子 読書感想文

真偽はわからないが、世界の中で一つの王朝が続き、皇室が成り立っているのは日本国だけだと聞いたことがある。
皇室についての知識は歴史漫画で学んだ程度なので、時折まことしやかに入る噂がこの耳をまぶしても、私にとってその存在はひたすらに貴く奥ゆかしいものだった。
ところが、昨年遂行された内親王の結婚ですっかりスキャンダラスな印象に取って代わられた。勿論、それは到底私には関係及ばずな話ではあるが、これまでとはその存在を見る目は違うものになった。

今回、この本を読もうと思ったきっかけは、もともと以前から朝鮮最後の王族のなかでも、特別に日本とゆかりのあった人々、李垠(イ・ウン)と李徳恵に興味があったからである。それが、日本の皇室の知られざる部分に触れるきっかけになるとは思いもしなかった。


この小説の主人公である伊都子は、父の転勤先であるイタリアはローマで明治15年に産まれた。名前はその生誕地に因む。父親は駐イタリア特命全権公使であり、肥前佐賀藩最後の藩主・鍋島直大だった。
成長した伊都子は、皇族・梨本宮家に嫁ぎ、娘を産む。
伊都子は、娘・方子(まさこ)を皇太子・裕仁(のちの昭和天皇)の妻にしたいと考えていたが目論見が外れる。
悔しさをひた隠しながら、伊都子が方子の夫として選んだのは、幼い頃から日本で教育を受けて生きている朝鮮の皇子・李垠(イ・ウン)だった。

日韓併合で朝鮮の皇族は日本のそれと同等の扱いを受け、朝鮮からのバックアップもあり、李垠は嫁入り先としては申し分ない相手だった。また、日本と朝鮮の友好の証にもなる。そうであっても、異国の人と皇族が結婚するという考えに及んだのは、伊都子が割と自由で発展的な鍋島家で育ったからだと思われる。

私が李垠・方子夫妻のことを知ったのは、だいぶ前に二人のこと題材にしたドラマを通してである。李垠役は岡田准一、方子役は菅野美穂だった。
ドラマの中で二人は戦争を挟んで波乱万丈な人生を送ることになった。
日本の皇族として扱われていたものの、戦後、そこから切り離される。
朝鮮に戻ろうにも、王政復古を恐れる大統領が二人の存在を危惧し、困難が立ちはだかった。


伊都子は、李垠の母違いの妹である李徳恵の縁談にも絡んだ。伊都子は、李徳恵が精神を病んでいることを知っていて、対馬にルーツのある宗伯爵(イケメン)に嫁がせる。
仲睦まじい夫婦で子供も産まれるが、やがて徳恵の病は深刻なものへとなっていく。
小説の中で伊都子は李垠・方子夫妻が徳恵の病状にあまり関心を示さないことに苛立ちを覚えていた。
母違いの妹ということもあったのだろうが、何となく面倒くさかったのだろうという印象を受けた。
宗伯爵が徳恵を想って作った詩が切ない。この優しく美しい詩が、貴い人々の間で詠まれていたことを嬉しく思った。

戦争が終わると、皇室の縮小化が始まり、伊都子も皇族の扱い受けられなくなった。伊都子に限らず、金をだまし取られたり盗まれたりする元・皇族が続出。離婚したかと思ったら、子供が実子じゃないと裁判を起こす者も。
そもそも明治から昭和にかけて、方子以外にも中国人やエチオピア人と結婚する身分の高い人もいたとか。
駆け落ちした柳原白蓮くらいしか知らなかったので、読んでいて楽しかった。何だ、一般人より情熱的な人が多いじゃないかって。

私が見てきた皇族は、メディアが作ったものだったのだと納得したところで、伊都子が最後につぶやく言葉が強烈なフックとして頬を打つ。
それは、今の皇族を語るに値する言葉だった。

※最後に何回か載せているが、私の大好きな韓国ドラマの動画を。韓国にもし王室が続いていれば…というストーリー。韓国の皇太子の名前が「イ・シン」。李垠・方子夫妻が幼くしてなくした息子と同じ読み方。勝手に胸アツ。


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