小説「恋愛ヘッドハンター」③

「でも、水泳もそんなできるほうじゃないですよ。優輝…友達の方ができるし」
 諒は平泳ぎを得意としていたが、優輝にタイムで勝ったことは一度もなかった。敗北感が心の砂漠に波を立てていく。
「中島様の泳ぎは大変優雅であるとその女性はおっしゃられております」
「そうかなあ」
 確かにフォームは優輝よりもキレイかもしれない。諒の顔がほころんだ。
「また、その肉体の美しさは類を見ないともその女性…クライアント様はたいへん評価されておられます」
「はあ」
 体の評価が続くので、もしかして相手は年上なのかなと諒は想像をめぐらせた。
「中島様、できれば一度直接お会いしてお話しさせていただきたいのですが、ご都合のいい日時はございますでしょうか」
「あ、はい。そうだな」
 明後日は部活が休みで、塾の時間まで少し余裕があった。
「明後日の放課後なら少し時間があります」
「承知いたしました。でしたら、放課後に校門の前でお待ちしております」
「あ、わかりました」
「紺のスーツをを着ていますので」
「はい」
「夜分遅くにお話ししていただき、ありがとうございました。それでは明後日、お会いできるのを楽しみにしております。それでは、失礼いたします。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
 電話を切ったあと、心がほくほくと湯気を立てているのかと思うほどやけに温かくなった。
「はあ」
 諒はベッドの上で大の字になった。スマホを胸の上に乗せて目を瞑る。
どんな人が自分に想いを寄せてくれているのだろう。それを想像するのも楽しかったが、朝井れいかにも興味が広がる。話し方は落ち着いていたが、声色が時折高く聞こえたので二十代だと諒は予想した。髪は短いのか長いのか。目は大きいのか小さいのか。背は高いのか低いのか。太っているのか、痩せているのか。
気持ちはすでに明後日を通り越すほど、逸っていた。

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