小説「恋愛ヘッドハンター」④

「やった、明後日面談決定!」
 れいかはソファに座ったまま両手を伸ばして喜んだ。
「いいなあ。俺、今月まだ一個も面談決まってないわー」
 スマホゲームから目を離さないまま、智也は気だるくぼやいた。れいかは、ソファの隣で寝転がっている智也を見下ろした。
「ゲームしてる場合か」
 人差し指で智也の額を小突き、れいかはソファから離れた。
「どこ行くの?」
「お風呂入るの」
「一緒に入ろうか」
「結構です」
 れいかは自分の部屋に入ると、スマホをベッドに投げた。クローゼットからパジャマや下着を取り出し、浴室へと向かう。部屋着のロングワンピース、キャミソール、ブラジャー、靴下、パンツを順番に脱いで洗濯機に放り込み、浴室へと入っていった。
 シャワーで先に髪を洗う。シャンプー、コンディショナーと順番にこなすと、濡れた長い髪を棚においてあった透明のクリップで一つにまとめた。続けてていねいに体を洗ったのち、湯船に体を沈める。今日の入浴剤はゼラニウムの香り漂うバスソルトだ。ピンク色の湯に肩まで浸り、そっと目を閉じる。
 いきなり浴室のドアが開いた。裸の智也が入ってきた。
「もう、何で入ってくるの?ゲームしてたんじゃないの?」
「目が疲れた。早く寝たい」
 そう言うと、智也はシャワーで髪を濡らし始めた。手早く髪と体を洗うと、浴槽に足を入れた。
「こっち来て」
 れいかは言われるまま智也の胸に背中を預けた。智也はれいかの襟足に唇を寄せた。
「明後日、俺もついていこっか」
「結構です。そんなことする暇あったら、ご新規さん探しなさいよ」
「はーい。そうだな。お金稼がなきゃ」
「そうよ。私たちには頼れる人がいないんだから」
 れいかは後ろを向き、智也にキスした。智也が下唇を食もうとすると、れいかは素早く顔を正面に戻した。
「いやらし」
「自分からしてきたくせに」
 拗ねる智也を鼻で笑い、れいかは湯船から出ていった。

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